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会社から専門業務型裁量労働制を適用したいので同意して欲しいとの申し出を受けましたが、同制度は如何なるものでしょうか。また会社側からの申し出に対して、同意しない、またはいったん同意するも撤回した場合、自らの処遇等が不利益に変更されてもやむを得ないでしょうか。
- 専門業務型裁量労働制とは
専門業務型裁量労働制とは、労基法38条の3に基づき、「業務の性質上その遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、業務の遂行手段や時間配分などの決定について具体的な指示が困難なものとして省令で定める業務」につき、対象業務やみなし時間数など一定の事項に関して労使協定を締結した場合、同協定で定めたみなし時間により労働時間の算定を行うことが認められる制度になります(労基署への労使協定届出義務有り)。同制度が適法に導入された場合、対象労働者の労働時間は現実の労働実績にかかわりなく、労使協定で定める時間数働いたものとみなされます。裁判例(東京高判平成21.10.21(労判995号39頁))においても、システムコンサルタントに対する同制度の適用(10時間みなし)を肯定した上で、「労働者が実際に労働した時間が例えば12時間であるとして、証拠を挙げ反証しても、その分の割増賃金を請求することを許さない趣旨のものと解される」と判示するものです。ただし休憩時間、法定休日労働、深夜労働等に係る労基法上の規制は、専門業務型裁量労働制が適法に導入されていたとしても、やはり適用されます。また同制度を形式上導入するも、法令に定める要件・手続きに合致しない(対象外業務に導入または労使協定がない場合など)場合には、みなし労働時間制が適用されず、労基法上の労働時間規制および時間外割増賃金等の支払い義務が遡及的に生じることになります。 -
新たな導入要件としての同意と不利益取扱い禁止
厚労省は令和5年3月30日付厚生労働省令第39号において、労基法の政省令改正等を行い、専門業務型裁量労働制の制度導入要件につき、所要の見直しを行いました(令和6年4月1日施行)。
同政省令改正では、まず専門業務型裁量労働制の導入・更新に際し、労使協定に「労働者本人の同意を得る・同意の撤回の手続きを定める」ことを義務づけるとともに、同意をしなかった場合および同意を撤回したことを理由とする不利益取扱い禁止を義務づけます。以上の改正は令和6年4月1日以降、新たに、又は継続して専門業務型裁量労働制を導入する全ての事業場において適用されますが、新たな実務上の課題になるのが、労働者が不同意または同意を撤回した場合の処遇問題です。特に会社側があらかじめ人事制度上、専門業務型裁量労働制の適用を前提とした職務内容・責任を定め、これに基づき処遇決定を行う場合、労働者の不同意・撤回等を受け、職務・責任内容を見直すことに伴う処遇等引き下げが「解雇その他不利益取扱い」(労基法施行規則第24条の2の2第3項)に該当するか否か問題となります。
専門業務型裁量労働を不同意・撤回した者に対する労働条件引き下げにつき、厚労省の疑義応答集2−3および2−4(令和5年11月6日付事務連絡「令和5年改正労働基準法施行規則等に係る裁量労働制に関するQ&A」(こちら)では、次の回答例が見られます。
「裁量労働制適用前に、あらかじめ労働契約の内容として、適用労働者と非適用労働者の等級とそれに基づく賃金額や、適用労働者のみ支給対象の手当が定められている場合には、撤回後の労働条件は当該労働契約の内容に基づき決定されるものであるから、その内容が明らかに合理性のないものでない限り、撤回を理由とした不利益取扱いには当たらない」とします。
厚労省『専門業務型裁量労働制の解説』(こちら)20頁の「(例)本人同意を得るに当たって労働者に明示する書面」においても、本人同意した場合における「評価制度・賃金制度」とともに、本人同意をしなかった場合等における「評価制度・賃金制度」を記した記載例を示すものです。
以上のとおり、専門業務型裁量労働制を不同意または同意を撤回した労働者につき、その職務内容・責任等に応じた評価・賃金制度を適用し、結果として賃金処遇が引き下げられることは直ちに違法とはいえませんが、会社として、あらかじめ合理的な「評価・賃金制度」を明らかにし、対象労働者に対し十分な説明・納得を得る努力を講じることが求められています。
- 凡例
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法令の略記
・労基法:労働基準法 ・労基則:労働基準法施行規則 ・年少則:年少者労働基準規則 ・最賃法:最低賃金法
・労契法:労働契約法 ・賃確法:賃金の支払の確保等に関する法律 ・安衛法:労働安全衛生法 -
条文等の表記
・法令略記後の数字:該当条文番号 ・法令略記後の○囲みの数字:該当項番号 ・法令略記後の( )囲みの漢数字:該当号番号
例:労基法12①(二):労働基準法第12条第1項第2号 -
通達の表記
・発基:大臣又は厚生労働事務次官名で発する労働基準局関係の通達 ・基発:労働基準局長名で発する通達
・基収:労働基準局長が疑義に答えて発する通達 ・婦発:婦人局長(現 雇用均等・児童家庭局長)名で発する通達