仕事中にちょっとした不注意でケガをしました。労災保険が適用され、療養のため1週間ほど休みました。ところが、職場復帰した日に、突然社長から「労災事故を起こした責任を取ってもらう、今日付けで解雇する」と言われました。解雇予告手当は払うというのですが、このような解雇は許されるのでしょうか。

労基法では、解雇後の就業活動に困難が生じるような場合には、一定期間解雇を制限し、労働者の生活が脅かされることのないよう保護する規定が定められています(第19条)。

具体的には、次の2つの場合です。

  • ①労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間
  • ②産前産後の女性が労基法第65条の規定によって休業する期間(産前6週間(多胎妊娠の場合は14週間)と産前8週間)及びその後30日間

ただし、例外として、①については使用者が第81条の規定によって打切補償を支払う場合、①と②については天災事変その他やむをえない事由のために事業の継続が不可能となった場合で労働基準監督署長の認定を受けた場合においては、この解雇制限の規定は適用されません。

本件は、仕事中のケガにより療養のために休業したのですから、①のケースに該当し、例外の場合に該当しませんから、職場復帰した日から30日間は解雇が制限されます。

したがって、本件の解雇は、労基法に反し、許されるものではありません。

なお、解雇制限期間はそもそも解雇できないのですから、解雇予告手当の支払は問題となりません。

また、労働契約法第16条では、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利を濫用したものとして無効とする、と定められています(いわゆる「解雇権濫用の法理」)。

本件についても、仮に上記の解雇制限期間を過ぎたとしても、重大な過失により会社に甚大な損害を与えたような場合は別にして、単に労働災害を発生させたことのみを理由として解雇することは、一般には、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」に当たり、無効となるものと考えられます。

いずれにしても、社長があくまで解雇するという場合には、労働局や労働基準監督署に設けられている総合労働相談コーナーに相談されるとよいでしょう。

凡例
法令の略記
・労基法:労働基準法 ・労基則:労働基準法施行規則 ・年少則:年少者労働基準規則 ・最賃法:最低賃金法
・労契法:労働契約法 ・賃確法:賃金の支払の確保等に関する法律 ・安衛法:労働安全衛生法
条文等の表記
・法令略記後の数字:該当条文番号 ・法令略記後の○囲みの数字:該当項番号 ・法令略記後の( )囲みの漢数字:該当号番号
例:労基法12①(二):労働基準法第12条第1項第2号
通達の表記
・発基:大臣又は厚生労働事務次官名で発する労働基準局関係の通達 ・基発:労働基準局長名で発する通達
・基収:労働基準局長が疑義に答えて発する通達 ・婦発:婦人局長(現 雇用均等・児童家庭局長)名で発する通達