テレワークは働く場所で分けると、①自宅で働く在宅勤務、②移動中や出先で働くモバイル勤務、 ③本拠地以外の施設で働くサテライトオフィス勤務があります。
①在宅勤務
在宅勤務は、所属する勤務先から離れて、自宅を就業場所とする働き方です。就業形態によって、雇用型テレワークと自営型テレワークがあります。
在宅勤務というと、全く出社しないで、毎日自宅で仕事をするイメージを持つ人も多いと思います。しかし、日本で在宅勤務制度を導入している企業では、週1~2日の頻度で実施する場合が一般的です。
最近では、1日の一部を在宅勤務で行う、「部分在宅勤務(部分利用)」を導入している企業も少なくありません。子どもの学校のPTAに出席する場合や役所への手続きをする場合など、半日休暇や時間休暇と組み合わせることにより、従業員の利便性が高まります。また、例えば、早朝に海外とのWeb会議をして、子どもを保育園に送ってから遅めの出社をするという働き方もできます。
②モバイル勤務
移動中の交通機関や顧客先、カフェ、ホテル、空港のラウンジなどを就業場所とする働き方です。営業職など頻繁に外出する業務の場合、隙間時間・待機時間に効率的に業務を行うことができます。また、直行・直帰を活用すれば、わざわざオフィスに戻って仕事をする必要がなく、ワーク・ライフ・バランス向上にも効果があります。
③サテライトオフィス勤務
本拠地のオフィスから離れたところに設置した部門共用オフィスで就業する施設利用型の働き方です。サテライトオフィスには専用型と共用型があります。
専用型は、自社や自社グループ専用で利用するサテライトオフィスです。営業活動中や出張の際に立ち寄って利用する、在宅勤務の代わりに自宅近くのサテライトオフィスで勤務する、などの働き方があります。自社の事業所の中に社内サテライトオフィスを設置する場合と既存の事業所とは別に設置する場合があります。
共用型は、社内専用ではなく、複数の企業や個人事業主が共用するオフィスです。最近ではシェアオフィスまたはコワーキングスペースと呼ぶ場合もあります。当初は、フリーランスや起業家の利用が多かったのですが、最近は企業がこれらの施設と契約して、従業員に利用させるケースも増えつつあります
*ワーケーションとは
「ワーク」と「バケーション」を組み合わせた造語。テレワーク等を活用し、普段の職場や自宅とは異なる場所で仕事をしつつ、自分の時間も過ごす。
テレワークの導入に当たっては、あらかじめ労使で十分に話し合い、ルールを定めることが重要です。就業規則の作成義務のある事業場にあっては、使用者はテレワークのルールを就業規則に定め、労働者に適切に周知する必要があります。また、就業規則の作成義務がない事業場であっても、テレワークのルールについて、就業規則に準ずるものを作成したり、労使協定を結んだりすることが望ましいとされています。
なお、テレワークの場合においても、使用者は時間外・休日労働をさせる場合には、三六協定の締結、届出や割増賃金の支払が必要となり、深夜に労働させる場合には、深夜労働に係る割増賃金の支払が必要です。また、最低賃金は、テレワークを行う場所の如何にかかわらず、テレワークを行う労働者の属する事業場がある都道府県の最低賃金が適用されます。
労働者は、労働契約の時に示される労働条件通知書によって、その会社でのテレワークの有無を確認することができます。すなわち、使用者は、労働契約を締結する際、労働者に対し、賃金や労働時間のほかに、就業の場所に関する事項等を明示しなければならないことになっています。その際、労働者に対し就労の開始日からテレワークを行わせることとする場合には、就業の場所として「使用者が許可する場所」も含め自宅やサテライトオフィスなど、テレワークを行う場所を明示する必要があります。また、労働者が就労の開始後にテレワークを行うことを予定している場合には、使用者は、自宅やサテライトオフィスなど、テレワークを行うことが可能である場所を明示しておくことが望ましいとされています。
また、労働契約締結時にはテレワークが予定されていなかった場合、就労の開始後において、労働契約や就業規則において定められている勤務場所や業務遂行方法の範囲を超えて使用者が労働者にテレワークを行わせる場合には、労働者本人の合意を得た上での労働契約の変更が必要となります。
テレワークに関わる費用については、労働者に過度な負担が生じることは望ましくありません。労使のどちらがどのように負担するか等は、個々の企業ごとの業務内容・物品の貸与状況により様々であり、労使でよく話し合って決めていただくようお願いします。その上で、費用負担について、テレワークを導入する前に、明確なルールをつくり、労働者に対して、丁寧に説明することが望ましいです。
<就業規則での定めについて>
労働基準法89条1項5号では「労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項を就業規則に定めなければならない。」と規定されています。費用負担についてルールを定めた場合、その中で労働者に費用負担をさせると定めている内容は同号に該当するため、就業規則の作成義務を負う使用者は、当該内容について就業規則(その一部としてテレワーク勤務規程等を設けている場合は当該規程等)を作成、変更する必要があります。
就業規則の作成義務がない企業であっても、労働者に費用負担をさせる場合には、労使合意による労働条件の変更が必要です。このような労働契約の変更については、できる限り書面により、その内容を当事者間でよく確認してください。
<費用負担の例について>
テレワークの導入によって、費用が発生する例としては次のようなものが考えられます。
① 情報通信機器の費用
テレワーク導入企業の事例では、パソコン本体や周辺機器、携帯電話、スマートフォンなどについては、会社から貸与しているケースが多く見られます。会社が貸与した場合、全額会社負担としている例が見られます。
② 通信回線費用
①の機器を会社から貸与していることと併せて、通信費用も会社負担としているケースが見られます。
通信費用については、個人の使用と業務使用との切り分けが困難なため、一定額を会社負担としている例が見られます。
③ 文具、備品、宅配便等の費用
文具消耗品については会社が購入した文具消耗品を使用する例もあります。
切手や宅配メール便等は事前に配布できるものはテレワークを行う労働者に渡しておき、会社宛の宅配便は着払いにするなどで対応ができます。やむを得ずテレワークを行う労働者が文具消耗品の購入や宅配メール便の料金を一時立て替えることも考えられますので、この際の精算方法等もルールを定めておくことが重要です。
④ 水道光熱費
自宅の電気、水道などの光熱費も実際には負担が生じますが、業務使用分との切り分けが困難なため、テレワーク勤務手当に含めて支払っている企業も見受けられます。
労働基準法には様々な労働時間制度が定められており、全ての労働時間制度でテレワークが実施可能です。このため、テレワーク導入前に採用している労働時間制度を維持したまま、テレワークを行う場合もありますし、テレワークを実施しやすくするため、労働時間制度を変更する場合もあります。
1.通常の労働時間制度及び変形労働時間制
通常の労働時間制度及び変形労働時間制においては、始業及び終業の時刻や所定労働時間をあらかじめ定める必要がありますが、テレワークでオフィスに集まらない労働者について必ずしも一律の時間に労働する必要がないときには、その日の所定労働時間はそのままとしつつ、始業及び終業の時刻についてテレワークを行う労働者ごとに自由度を認めることも考えられます。このような場合には、使用者があらかじめ就業規則に定めておくことによって、テレワークを行う際に労働者が始業及び終業の時刻を変更することができるようにすることが可能です
2.フレックスタイム制
フレックスタイム制は、労働者が始業及び終業の時刻を決定することができる制度であり、テレワークになじみやすい制度です。特に、働く場所の柔軟な活用を可能とすることにより、次のように、労働者にとって仕事と生活の調和を図ることが可能となるといったメリットもあり、フレックスタイム制を活用することによって、労働者の仕事と生活の調和に資することが可能となります。
・在宅勤務の場合に、労働者の生活サイクルに合わせて、始業及び終業の時刻を柔軟に調整することや、オフィス勤務の日は労働時間を長く、一方で在宅勤務の日は労働時間を短くして家庭生活に充てる時間を増やすといった運用が可能
・一定程度労働者が業務から離れる中抜け時間についても、労働者自らの判断により、その時間分その日の終業時刻を遅くしたり、清算期間の範囲内で他の労働日において労働時間を調整したりすることが可能
・テレワークを行う日についてはコアタイム(労働者が労働しなければならない時間帯)を設けず、オフィスへの出勤を求める必要がある日・時間についてはコアタイムを設けておくなど、企業の実情に応じた柔軟な取扱いも可能
3.事業場外みなし労働時間制
事業場外みなし労働時間制は、労働者が事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定することが困難なときに適用される制度であり、使用者の具体的な指揮監督が及ばない事業場外で業務に従事することとなる場合に活用できる制度です。テレワークにおいて一定程度自由な働き方をする労働者にとって、柔軟にテレワークを行うことが可能となります。次の①②をいずれも満たす場合には、この労働時間制度をテレワークに適用することができます。
① 情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと。以下の場合については、いずれもこの条件を満たすと認められ、情報通信機器を労働者が所持していることのみをもって、制度が適用されないことはありません。
・ 勤務時間中に、労働者が自分の意思で通信回線自体を切断することができる場合
・ 勤務時間中は通信回線自体の切断はできず、使用者の指示は情報通信機器を用いて行われるが、労働者が情報通信機器から自分の意思で離れることができ、応答のタイミングを労働者が判断することができる場合
・ 会社支給の携帯電話等を所持していても、その応答を行うか否か、又は折り返しのタイミングについて労働者において判断できる場合
② 随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと。以下の場合については、この条件を満たすと認められます。
・ 使用者の指示が、業務の目的、目標、期限等の基本的事項にとどまり、一日のスケジュール(作業内容とそれを行う時間等)をあらかじめ決めるなど作業量や作業の時期、方法等を具体的に特定するものではない場合
*裁量労働制及び高度プロフェッショナル制度
これらの制度は、業務遂行の方法、時間等について労働者の自由な選択に委ねることを可能とする制度であり、これらの制度の対象労働者について、テレワークの実施を認めることにより、労働する場所についても労働者の自由な選択に委ねることが考えられます。
テレワークの場合における労働時間の管理については、テレワークが本来のオフィス以外の場所で行われるため使用者による現認ができないなど、労働時間の把握に工夫が必要になると考えらます。
実際には、テレワーク勤務者から始業時・終業時にメールや電話で上長に連絡し、労働時間を管理する方法をとる企業は多くあります。また、実際に業務を遂行している場面を現認しているわけではありませんので、その際の業務内容について、終業時のメールに作業日報として1日の業務内容をテレワーク勤務者に提出させる運用をとっている企業もあります。
一方で、テレワークは情報通信技術を利用して行われるため、労働時間管理についても情報通信技術を活用して行うこととする等によって、労務管理を円滑に行うことも可能となります。最近ではクラウドによる勤怠管理システムを導入している企業も増えてきました。
テレワークについては、時間外労働の削減につながるというメリットが期待される一方で、次のようなおそれがあります。
・労働者が使用者と離れた場所で勤務をするため相対的に使用者の管理の程度が弱くなる。
・業務に関する指示や報告が時間帯にかかわらず行われやすくなり、労働者の仕事と生活の時間の区別が曖昧となり、労働者の生活時間帯の確保に支障が生ずる。
このような点に鑑み、長時間労働による健康障害防止を図ることや、労働者のワーク・ライフ・バランスの確保に配慮することが求められます。テレワークにおける長時間労働等を防ぐ手法としては、次のような手法が考えられます。
①メール送付の抑制
テレワークにおいて長時間労働が生じる要因として、時間外等に業務に関する指示や報告がメール等によって行われることが挙げられる。このため、役職者、上司、同僚、部下等から時間外等にメールを送付することの自粛を命ずること等が有効です。
②システムへのアクセス制限
テレワークを行う際に、企業等の社内システムに外部のパソコン等からアクセスする形態をとる場合が多いが、所定外深夜・休日は事前に許可を得ない限りアクセスできないよう使用者が設定することが有効です。
③時間外・休日・所定外深夜労働についての手続
通常のオフィス勤務の場合と同様に、業務の効率化やワーク・ライフ・バランスの実現の観点からテレワークを導入する場合にも、その趣旨を踏まえ、労使の合意により、時間外等の労働が可能な時間帯や時間数をあらかじめ使用者が設定することも有効です。この場合には、労使双方において、テレワークの趣旨を十分に共有するとともに、使用者が、テレワークにおける時間外等の労働に関して、一定の時間帯や時間数の設定を行う場合があること、時間外等の労働を行う場合の手続等を就業規則等に明記しておくことや、テレワークを行う労働者に対して、書面等により明示しておくことが有効です。
④長時間労働等を行う労働者への注意喚起
テレワークにより長時間労働が生じるおそれのある労働者や、休日・所定外深夜労働が生じた労働者に対して、使用者が注意喚起を行うことが有効です。具体的には、管理者が労働時間の記録を踏まえて行う方法や、労務管理のシステムを活用して対象者に自動で警告を表示するような方法が考えられます。
⑤勤務間インターバル
勤務間インターバル制度はテレワークにおいても長時間労働を抑制するための手段の一つとして考えられ、この制度を利用することも考えられる。
労働安全衛生法等の関係法令等は、職場における労働者の安全と健康を確保するために必要な措置を講ずることを事業者に求めています。テレワークを実施する場合においても、事業者は、これら関係法令等に基づき、労働者の安全と健康の確保のための措置を講ずる必要があります。また、事業者は、労働者が自宅等でテレワークを行う際のメンタルヘルス対策、作業環境整備などについても、配慮することが求められています。
テレワークを行う労働者については、事業場における勤務と同様、労働基準法に基づき、使用者が労働災害に対する補償責任を負うことから、労働契約に基づいて事業主の支配下にあることによって生じたテレワークにおける災害は、業務上の災害として労災保険給付の対象となります。ただし、私的行為等業務以外が原因であるものについては、業務上の災害とは認められません。
事業主は、職場におけるパワーハラスメント、セクシュアルハラスメント等の防止のための雇用管理上の措置を講じることが義務づけられており、テレワークの際にも、オフィスに出勤する働き方の場合と同様に、関係法令・関係指針に基づき、ハラスメントを行ってはならない旨を労働者に周知啓発する等、ハラスメントの防止対策を十分に講じる必要があります。
テレワークでは個々の労働者の業務遂行状況や発揮される能力を把握しづらいとの指摘もありますが、人事評価は、企業が労働者に対してどのような働きを求め、どう処遇に反映するかといった観点から、適切に実施することが基本であり、テレワークを行っているか、出社しているかによって変わるものではありません。テレワークを導入する場合、人事評価制度の変更は必ずしも必要ではありませんが、テレワーク勤務を行う場合の人事評価方法とオフィス勤務の場合の評価方法を区別する場合、誰もがテレワークを行えるようにすることの妨げとならないように留意しつつ設定することが重要です。テレワークを行う者が、そのことを理由として、テレワークを行っていない他の労働者と比較して、不利な評価を受けることは不適切な人事評価といえます。
解雇・雇止め・配置転換、賃金引下げ、パワーハラスメントを含めたいじめ・嫌がらせなど、あらゆる分野の労働相談を受け付けています。テレワークに係る人事評価、費用負担等に関するトラブルが起きたときには、こちらへご相談ください。最寄りの施設は、厚生労働省ホームページでご確認ください。
賃金・労働時間・解雇。退職金・その他の待遇、仕事中や通勤途上のケガ、労働災害や職業性疾病の防止などについての相談を受け付けています。テレワーク中の残業代、テレワーク中の負傷の場合などについては、こちらへご相談ください。
同部(室)においては、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント、同一企業内における正規労働者・非正規労働者の間の不合理な待遇差等に関する相談を受け付けています。パートタイムであることを理由としてテレワークを認められない場合、テレワーク中にハラスメントを受けた場合などについては、こちらへご相談ください。また、派遣労働法に関するご相談は、都道府県労働局内の需給調整事業部(課・室)が受け付けています。