職場における労働者のメンタルヘルスケアは、国の指針(※)において、次の3つに分けられています。
※ 「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(平成18年3月31日付け健康保持増進のための指針公示第3号 及び平成30年8月22日一部改正)
一次予防:メンタルヘルス不調となることを未然に防止すること
二次予防:メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切に対応を行うこと
三次予防:メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰を支援すること
ストレスチェック制度は、これらの取組のうち、特に一次予防を強化するものです。メンタルヘルス不調の発見を目指すものではありません。
メンタルへルスケアの取組みは、次の4つのケアが基本となります。
ストレスチェック制度では、労働者自身がストレスチェックの結果を見て自分のストレスの状態に気づき、これに対処する①セルフケアに取り組むことがまず大切になります。
また、会社側は、ストレスチェックの集団分析の結果等を踏まえ、②ラインによるケアを含む職場環境改善に取り組むことが重要です。さらに、必要に応じて、医師による面接指導のほかに、③事業場内産業保健スタッフ等によるケア、④事業場外資源によるケアも活用することが効果的です。
また、職場において4つのケアを進めていくためには、教育研修・情報提供が重要です。
こうした取組を通じて、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目指します。
ストレスチェック制度は、常時50人以上の労働者を使用する事業場に実施義務があり、ストレスチェック及びその結果に基づく面接指導等を毎年1回実施することが必要です。また、ストレスチェック結果を集団ごとに集計・分析し、その結果等を踏まえた職場環境改善の実施も努力義務となっています。
事業場は、企業全体を意味するものではなく、本社・支店・工場などの単位です。36協定の締結単位や、安全衛生管理体制の単位と同じです。
50人以上かどうかの判断も衛生管理体制等の適用と同じで、週1回勤務の労働者も含めた常態として使用する労働者をカウントします。
一方、事業者がストレスチェックを実施しなければならない対象者は「常時使用する労働者」です。契約期間が1年未満の労働者や1週間の所定労働時間の短い労働者は、健康診断同様、ストレスチェック実施義務の対象外となる場合があります。なお、労働者に対してはストレスチェックの受検は義務づけられていません。
派遣労働者については、派遣元事業者に実施義務があります。
制度の流れは、次の図のとおりです。
ストレスチェック制度の実施手順
事業者は、ストレスチェックを実施するに当たって、まず、「メンタルヘルス不調の未然防止のためにストレスチェック制度を実施する」旨の方針を示すこととなっています。また、ストレスチェック制度の実施体制や実施方法、結果の記録の保存方法などについて、衛生委員会等で調査審議を行ったうえで、社内規程にし、労働者に周知することになっています。こうした内容について、あらかじめ確認しておくといいでしょう。
※ 衛生委員会等で調査審議すべき事項
なお、ストレスチェックを実施するに当たって、以下の役割の者を選任することになっています。
健康診断とは違い、ストレスチェックには労働者に受検の義務は ありません。受検の有無の情報は、事業者に開示することが認められていますので、未受検の場合は受検を勧奨されることがありますが、ストレスチェックを受検しないことを持って事業者が不利益な取扱いを行うことは禁止されています。
ストレスチェックの調査票は、次の3つの項目が含まれているものを、実施者の意見や衛生委員会の調査審議を踏まえて選択すればよいことになっています。
「職業性ストレス簡易調査票」を用いることが望ましいとされています。
「職業性ストレス簡易調査票」の項目(57項目)
実施には、次のような方法が考えられます。
ストレスチェックの結果は、労働者一人一人に通知されます。
本人の個別の同意がなければ、結果を事業者に通知することは禁止されています。ストレスチェック結果を事業者に提供することに同意しない場合に事業者が不利益な取扱いをすることは禁止されています。
ストレスチェック結果を踏まえて、セルフケアに取り組みましょう。「こころの耳」では、セルフケアのヒントや相談窓口などを提供していますので、ぜひご活用ください。
ストレスチェックの結果、高ストレスであり、医師による面接指導を受ける必要があると実施者が認めた場合は、面接指導の申出について案内があります。
面接指導を申し出た場合にはストレスチェック結果を事業者に提供することに同意したとみなされますが、面接指導の結果、必要な場合は就業上の措置(時間外労働の制限、配置転換など)につながる可能性があります。また、面接指導を申し出たことに対して事業者が不利益な取扱いをすることは法律上禁止されています。
本人に通知するストレスチェック結果のイメージ
面接指導を実施する医師は、事業場の産業医か事業場において産業保健活動に従事している医師が推奨されていますが、外部の医師に委託する場合もあります。
事業者は、面接指導を実施する医師に、あらかじめ、当該労働者について、次の情報を提供します。
面接指導は対面で実施するのが原則ですが、厚生労働省が示す留意点が守られる場合は、情報通信機器(ICT)を用いて面接指導を実施することもできます。
事業者は、面接指導を行った医師から、就業上の措置の必要性の有無及び講ずべき措置の内容その他の必要な措置に関する意見を聴きます。
集団ごとの集計・分析及び集団分析結果等に基づく職場環境改善の実施は、事業者の努力義務となっています。
集団分析結果と、当該部署の業務内容や労働時間など他の情報と合わせて評価し、職場環境改善につなげることによって、職場のストレスが低減され、生産性の向上につながる可能性があります。
10人未満の集団で分析する場合は、すべての合計点について集団の平均値だけを求めるなど、個人特定につながらない方法をとる必要があります。
集団ごとの集計・分析結果のイメージ
次のことを理由に労働者に対して不利益な取扱いを行うことは禁止されています。
事業者は、ストレスチェックの結果のみを理由とした不利益な取扱いについても、行ってはいけません。
また、面接指導の結果を理由として、解雇、雇い止め、退職勧奨、不当な動機・目的による配置転換・職位の変更を行うことは、禁止されています。
事業者は、次の記録を5年間保存しなければなりません。
①ストレスチェックの結果については、事業者への提供に労働者の同意がある場合には、事業者が、同意がない場合には、実施者もしくは実施事務従事者が保存することになります。
ストレスチェックの実施者・実施事務従事者、面接指導の実施の事務に従事した者は、ストレスチェックや面接指導の実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはならないという罰則規定が設けられています。
ストレスチェック後のセルフケアなどに関するご相談については、電話相談窓口が設けられています。
労働者等からの心の健康問題に関する電話相談窓口