労働災害とは、業務が原因で労働者が負傷したり病気になったりすることをいいます。具体的には、「労働者の就業に係る建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等により、又は作業行動その他業務に起因して、労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡すること(労働安全衛生法第2条第1項第1号)」をいいます。
国内では、労働災害に被災して、休業4日以上となった方が毎年10万人以上、死亡された方が毎年700人を超えています。
一般に、こうした労働災害のうち、労働者の負傷を防ぐことを「安全」、疾病を防ぐことを「衛生」と呼びます。
近年では、過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患や、仕事による強いストレスなどが原因で発病した精神障害が、業務上の疾病として注目されています。
上記の「安全」「衛生」について定めた法律が、労働安全衛生法(以下「安衛法」)です。この法律は、「職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的」としています(安衛法第1条)。労働者の安全衛生について定めた法律には、他にじん肺法、作業環境測定法などがあります。
安衛法は、事業者等に次のような措置等を義務付けています。
なお、安衛法でいう「事業者」とは、「事業を行う者で、労働者を使用するもの」と定義されており、具体的にはその事業における経営主体のことで、個人企業では事業主、会社その他の法人では法人そのもののことです。
安衛法は、事業者に、下記のような労働災害等により労働者が死亡又は休業した場合には、遅滞なく、労働者死傷病報告等を労働基準監督署長に提出することを義務づけています(安衛法第100条 安衛則第97条 労働基準法施行規則第57条)。
様式は次のとおりです。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei36/17.html
労働者死傷病報告は、労働災害統計の作成などに活用されており、提出された労働者死傷病報告をもとに労働災害の原因の分析が行われ、同種労働災害の再発を防止するための対策の検討に生かされるなど、労働安全衛生行政の推進に役立てられています。
「労働安全衛生マネジメントシステム」とは、事業者が労働者の協力の下に「計画(Plan)-実施(Do)-評価(Check)-改善(Act)」(「PDCAサイクル」といわれます)という一連の過程を定めて、継続的な安全衛生管理を自主的に進めることにより、労働災害の防止と労働者の健康増進、さらに進んで快適な職場環境を形成し、事業場の安全衛生水準の向上を図ることを目的とした安全衛生管理の仕組みです。
厚生労働省から「労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針」https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000591723.pdf(平成11年労働省告示第53号 令和元年7月1日改正同日施行)(OSHMS指針)が示されています。
労災保険とは、業務上の事由または通勤による労働者の負傷・疾病・障害または死亡に対して労働者やその遺族のために、必要な保険給付を行う制度です。
労働災害が発生した場合、事業主は、労働基準法(以下「労基法」)により補償責任を負わねばなりません。しかし、労災保険による給付が行われると、給付の範囲で、事業主は労基法上の補償責任を免れます。労働災害によって労働者が休業する際の休業1~3日目の休業補償は、労災保険から給付されないため、平均賃金の60%以上を労基法に基づいて事業主が直接労働者に支払う必要があります。
労働災害が発生した場合には、事業者は次のような責任を問われることとなります。
(1)刑事責任
安衛法には、罰則を伴う条文があります。罰則は、災害発生の有無に関わらず、適用されうるものですが、災害に係る安衛法違反が認められる場合には、罰則の適用を受け、刑事責任を問われることが多々あります。安衛法には両罰規定が定められているため、実行行為者と事業者が送検されうることとなります。
(2)民事責任
労働契約法第5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定め、事業者の「安全配慮義務」を明文化しています。労働者が、労働災害によって、身体・生命・健康などの損害を負った場合には、事業者は、安全配慮義務を怠ったとして債務不履行又は不法行為による損害賠償責任を問われることがあります。
安衛法第4条は、「労働者は、労働災害を防止するため必要な事項を守るほか、事業者その他の関係者が実施する労働災害の防止に関する措置に協力するように努めなければならない」として、労働者にも努力義務を課しています。労働災害の防止は、働く人一人一人の自覚と努力に負うところが大きいものです。