1985年(昭和60年)に男女雇用機会均等法が制定されましたが、募集・採用・配置・昇進については、女性の機会均等を事業主の努力義務とする漸進的なものにとどまるものでした。
また、この法律には、女性労働者の職業意識や能力の向上を図り、かつ女性の育児・家事負担の中で、その就業を援助するための措置が盛り込まれましたが、男女双方を対象として性差別の禁止を図る「性差別禁止法」としてではなく、もっぱら女性労働者のために片面的に差別の規制と就業の援助を図るものでした。
その後、同法は、1997年(平成9年)に改正され、募集・採用等を含めて雇用の諸局面において事業主が女性に対し男性との間で差別的取扱いをすることを強行的に禁止する法律に強化されました。また、女性に対する企業のポジティブ・アクションを許容して国によるその支援を定め、また、母性健康管理を事業主の措置義務として規定しています。
さらに、2006年(平成18年)改正では、男女双方につき雇用の諸側面における差別的取扱いを一定の間接差別を含めて禁止する、性差別禁止法に発展しています。
ただ、男女雇用機会均等法の眼目は、あくまでも雇用における男女の均等な機会を法的に保障することであって、女性が、社会や職場の伝統的価値観・慣行や家事・育児等の現実の負担のなかで、職業生活上活躍することが困難である状況について、それを構造的に変革するため、積極的に支援したり環境整備したりする法制としては、きわめて限定的なものであると言えます。
1979年(昭和54年)には、国際連合で、「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」の採択を行い、1980年(昭和55年)には、世界女性会議で同条約の調印が行われました。これにより、日本政府は、同条約の批准とそのための国内法の整備を行うことが喫緊の課題となりました。この国内法の整備の中には、男女同一賃金の原則(労基法第4条)と男女平等取扱いの判例法理に加えて、女性に対するあらゆる差別撤廃のための一般的な法的措置をとることが含まれていました。この法的措置については、男女の社会的役割や雇用管理の在り方に関する社会的論争が巻き起こり、この論争を経て、男女雇用機会均等法(「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉に関する法律」)が、勤労婦人福祉法(昭和47年法律第113号)の改正法として制定されました(昭和60年法律法45号、1986年(昭和61年)4月1日施行)。
合計特殊出生率の低下傾向が顕著になり、その一因として考えられる仕事と育児の両立の困難さを改善するために、育児休業の法制度化の要請が高まったことから、1991年(平成3年)に女性労働者の能力発揮の促進の観点と、少子高齢社会への対策の観点が合致して、育児休業法が制定されました。その後、急速な増加が見込まれる寝たきり認知症の老人の介護体制の整備の動きの中で、介護休業の制度化が課題となり、育児介護休業法が1995年(平成7年)に制定されています。
その後、幾度かの法改正を経て、育児休業や介護休業、短時間勤務制度など、育児や介護をしながら働き続けられる環境整備が進みましたが、性別役割分担意識などは依然存在し、特に、育児休業、育児のための短時間勤務制度の利用者は、圧倒的に女性が多くなっています。
1990年代からの日本経済の長期低迷のなかで、1990年代後半から戦後の政治・経済・社会制度の構造改革が多面的に行われ、そのなかで1999年(平成11年)男女共同参画社会基本法が制定されました。同法は、男女が性別にかかわりなくその個性と能力を十分に発揮することができる「男女共同参画社会」の実現を、21世紀のわが国社会を決定する最重要課題と位置づけ、国および都道府県における「男女共同参画計画」の策定、内閣府における男女共同参画会議の設置など、同社会の形成に関する取組みを総合的・計画的に推進することとしています。
次いで、2003年(平成15年)には、次世代を担う子供が健やかに生まれ育成さ れるように、国または地方公共団体が環境整備の取組みを行い、また事業主が雇用環境の整備に関し行動計画を策定・実施することを奨励し支援することを内容とする次世代育成支援対策推進法が制定されました。特に、企業に対し次世代育成支援の行動計画の策定を義務づけ(従業員100人以下の企業は努力義務)、厚生労働大臣が一定の基準に適合した計画を実施している企業を認定し、これを広告等で表示できるとする仕組みは多くの企業に利用され、政策効果をあげている と言えます。
次世代育成支援対策推進法に基づき、一般事業主行動計画を策定した企業のうち、計画に定めた目標を達成し、一定の基準を満たした企業は、申請を行うことによって「子育てサポート企業」として、厚生労働大臣の認定(くるみん認定)を受けることができます。
この認定を受けた企業の証が、「くるみんマーク」です。2020年(令和2年)2月末時点で、1,024社が認定を受けています。
さらに、2015年(平成27年)4月1日より、くるみん認定を既に受け、相当程度両立支援の制度の導入や利用が進み、高い水準の取組を行っている企業を評価しつつ、継続的な取組を促進するため、新たにプラチナくるみん認定がはじまりました。2020年(令和2年)5月末時点で、372社が認定を受けています。
プラチナくるみん認定を受けた企業は、「プラチナくるみんマーク」を広告等に表示し、高い水準の取組を行っている企業であることをアピールできます。
女性活躍推進法は、以上の経過のなかで、2015年(平成27年)制定されています。
男女共同参画社会基本法第11条で「政府は、男女共同参画社会の形成の促進に関する施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。」とされていますが、女性活躍推進法は、ここで言う「法制上の措置」とみることができます。
また、「『日本再興戦略』改訂2014」に始まる立法経緯にみるとおり、日本経済活性化の施策としての立法でもあるといえます。
日本再興戦略は第二次安倍内閣が掲げる成長戦略で、平成25年(2013)6月に閣議決定され、その後、毎年改訂されています。「日本再興戦略」改定2014(平成26年6月24日閣議決定)では、わが国最大の潜在力である「女性の力」を最大限発揮できるようにすることは、人材の確保にとどまらず、企業活動、行政、地域等の現場に多様な価値観や創意工夫をもたらし、社会全体に活力を与える、として女性の活躍推進をその成長戦略の一つの主要施策としました。そして、指導的地位に占め る女性の割合を2020年(令和2年)に30% に引き上げるとの高レベルの数値目標を明示し、この数値目標達成等、女性の活躍推進のために国、自治体、企業が果たすべき役割を定めて実行することを目的とした新法の提出に向け、検討を開始することを宣言しました。また、企業側のマインドを変えるため、役員の女性比率や女性の登用方針等を積極的に情報開示することを促す方針を示しています。
女性活躍推進法等の一部を改正する法律が成立し、2019年(令和元年)6月5日に公布されました。
改正内容は以下のとおりです。
1 一般事業主行動計画の策定
*策定義務の対象拡大(2022年(令和4年)4月1日施行)
一般事業主行動計画の策定・届出義務及び自社の女性活躍に関する情報公表の義務の対象が、常時雇用する労働者が301人以上から101人以上の事業主に拡大されています。
※常時雇用する労働者が301人以上の事業主は、男女の賃金の差異の把握が義務化されました(2022年(令和4年)7月8日施行)
2 女性活躍に関する情報公表の強化(2020年(令和2年)6月1日施行)
常時雇用する労働者が301人以上の事業主は、情報公表項目について、
(1)職業生活に関する機会の提供に関する実績
(2)職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績
の各区分から1項目以上公表する必要があります。
※常時雇用する労働者が101人以上の事業主は、(1)(2)の全ての項目から1項目以上を公表する 必要があります(2022年(令和4年)4月1日施行)
*常時雇用する労働者が301人以上の事業主は、(1)から男女の賃金の差異を含めた2項目以上と(2)から1項目以上の計3項目以上を公表することが義務化されました(2022年(令和4年)7月8日施行)
3 特例認定制度(プラチナえるぼし)の創設(2020年(令和2年)6月1日施行)
女性の活躍推進に関する状況等が優良な事業主の方への認定(えるぼし認定)よりも水準の高い「プラチナえるぼし」認定を創設します。
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000594316.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000596891.pdf
女性活躍推進法の目的は、「近年、自らの意思によって職業生活を営み、又は営もうとする女性がその個性と能力を十分発揮して職業生活において活躍すること(以下、「女性の職業生活における活躍」という)が一層重要となっていることに鑑み、男女共同参画社会基本法の基本理念にのっとり、女性の職業生活における活躍の推進について、その基本原則を定め、並びに国、地方公共団体及び一般事業主の責務を明らかにするとともに、基本方針及び一般事業主の行動計画の策定、女性の職業生活における活躍を推進するための支援措置等について定めることにより、女性の職業生活における活躍を迅速かつ重点的に推進し、もって男女の人権が尊重され、かつ、急速な少子高齢化の進展、国民の需要の多様化その他の社会経済情勢の変化に対応できる豊かで活力ある社会を実現すること」とされています。
国及び地方公共団体は、女性の職業生活における活躍の推進に関して必要な施策を策定・実施する責務を負うとされています。
また、事業主は、上記基本原則①女性に対する採用、昇進等の機会の積極的な提供、②の職業生活と家庭生活の両立を図るための必要な環境の整備等の取組みを自ら実施するよう努めるとともに、国・地方公共団体の施策に協力する責務を負うとされています。
政府は、職業生活における女性の活躍の推進に関する基本方針を策定(閣議決定)し、公表することとし、地方公共団体(都道府県、市区町村)は、政府の基本方針を勘案して、当該区域内 における女性の職業生活における活躍について、推進計画を策定し(努力義務)、公表することとされています。
*女性の職業生活における活躍の推進に関する基本方針について(平成27年9月25日閣議決定、令和元年12月20日閣議決定)
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女性活躍推進法は、2015年(平成27年)8月28日に成立して、原則、公布日(9月4日)施行ですが、一般事業主による行動計画の策定については、2016年4月1日施行となっています。
また、同法は、2025年度(令和7年度)末までの10年間の時限立法になっています。
内閣総理大臣、厚生労働大臣および総務大臣は、事業主が女性の職業生活における活躍の推進に関する取組みを総合的かつ効果的に実施することができるよう、基本方針に即して「事業主行動計画策定指針」を定め、公表するとされています。
この指針では、次の項目に関する効果的取組等を規定しているので、各企業は、これらを参考にして自社の課題解決に必要な取組を選択し、行動計画を策定することとされています。
一般事業主(国・地方公共団体以外の事業主)であって常時雇用する労働者の数が301人以上(※)の事業主に対しては、
が義務づけられています。
また、常時雇用する労働者が300人以下(※)の事業主については、上記①~④が努力義務とされています。
(※)女性活躍推進法が2019年(令和元年)5月に改正されたことにより、今後、一般事業主行動計画の策定・届出義務が301人以上の事業主から101人以上の事業主へ拡大され、努力義務の対象となるのは100人以下の事業主になります。同規定の施行日は、2022年(令和4年)4月1日です 。
行動計画策定までの流れ
*一般事業主行動計画の策定・届出等について
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*情報の公表は、以下の項目について、一般事業主が、公表が適切と認めるものを選択して行うべきとされています(女性活躍推進省令1 9条)。
*公表状況
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(参考)特定事業主行動計画(国・地方公共団体)の作成、周知、公表
特定事業主(国・地方公共団体)は、「特定事業主行動計画」の作成、周知、公表の義務を負います (届出の義務はありません)。特定事業主は、行動計画に基づく取組の実施の状況を公表しなければならず、行動計画に定められた目標を達成するように努めなければならないとされています。
(※)女性活躍推進法が2019年(令和元年)5月に改正され、2022年(令和4年)4月1日から、一般事業主行動計画の策定・届出義務が301人以上の事業主から101人以上の事業主へ拡大され、努力義務の対象となるのは100人以下の事業主になります。
一般事業主行動計画の策定・届出を行った企業のうち、女性の活躍推進に関する状況等が優良な企業は、都道府県労働局への申請により、厚生労働大臣の認定を受けることができます。この認定は、労働者の人数にかかわらず、上記の要件を満たせば取得することができます。
認定を受けた企業は、厚生労働大臣が定める「えるぼし」マーク※を商品などに付すことができます。
また、「女性の活躍推進に向けた公共調達及び補助金の活用に関する取組指針」により、各府省等では、総合評価落札方式又は企画競争による調達において女性活躍推進法に基づく認定企業(「えるぼし」認定企業)などを加点評価する取組を平成28年度から実施しています。
※女性活躍推進法が2019年(令和元年)5月に改正され、2020年(令和2年)6月1日から、女性活躍に関する取組が特に優良な事業主に対する特例認定制度(プラチナえるぼしが創設されています。
*女性活躍推進法に基づく認定制度
認定の段階 ※法施行前からの実績の推移を含めることが可能
【別紙】女性の職業生活における活躍の状況に関する実績に係る基準
*「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」に基づく認定を取得しましょう!
詳しくはこちら
*認定企業の一覧
詳しくはこちら
厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」では、企業における女性の活躍状況に関する情報を一元的に集約しており、「女性活躍推進法」に基づく情報公表や行動計画の公表の掲載先として随時情報の更新等が可能です。
また、本データベースに掲載することにより、他の企業と女性活躍の進み具合を比較できると共に、学生・求職者の方に就職活動などで企業研究をする際の情報収集に役立ててもらうことで、優秀な人材の確保につながることが期待できます。
女性活躍推進法に基づき、一般事業主行動計画の策定・公表等を行った上で、行動計画に盛り込んだ取組内容を実施し、数値目標を達成した事業主に助成金を支給します。
助成金の申請にあたっては、行動計画等の公表は「女性の活躍推進企業データベース」上で行う必要があります。
助成金の種類と支給金額
o行動計画に盛り込んだ取組内容を実施(=「取組目標」を達成)し、3年以内に数値目標を達成した場合に支給。
•支給額:47.5万円<60万円> 1事業主1回限り
対象事業主:常時雇用する労働者が300人以下の事業主
なお、令和2年3月31日までに一般事業主行動計画を策定している場合は、以下の助成金を受給することができます。
•加速化Aコース
行動計画に盛り込んだ取組内容を2つ以上実施(=「取組目標」を達成)した場合に支給
支給額:38万円<48万円>(1事業主1回限り)
対象事業主:常時雇用する労働者が300人以下の事業主
•加速化Nコース
行動計画に盛り込んだ取組内容を実施(=「取組目標」を達成)し、数値目標を達成した場合に支給
支給額:28.5 万円<36万円>(1事業主1回限り)
47.5万円<60万円>(女性管理職比率が15%以上に上昇した場合のみ)
対象事業主:常時雇用する労働者が300人以下の事業主
※〈〉内は、生産性要件を満たした場合の支給額。生産性要件については厚生労働省HP「生産性要件を向上させた企業は労働関係助成金が割増されます」をご参照ください。
従業員数300人以下の中小企業の方々を対象に、女性活躍推進法に基づく自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析、行動計画策定、認定取得等に関する説明会の開催、電話相談受付、訪問支援を実施しています。
国は、職業生活における女性の活躍を推進するため、職業指導、職業紹介、職業訓練、創業の支援その他の必要な措置を講ずるよう努め、地方公共団体は、国の上記措置と相まって、相談、情報提供、助言等に努める(国はこれにつき財政上の措置に努める。)とされています。
国及び地方公共団体は、女性の職業生活における活躍の推進について啓発活動を行うとされています。
国は、国内外における女性の職業生活に取組みに関する情報の収集、整理、提供を行うとされています。
地方公共団体の区域においては、当該区域における女性の職業生活の活躍の推進に関する取組が効果的にかつ円滑に実施されるようにするため、国及び地方公共団体の関係機関が一般事業主の団体や学識経験者等を構成員とする協議会を設置することができるとされています。
政府は、「すべての女性が輝く社会づくり本部」・「男女共同参画推進本部」において、女性の活躍を加速するために、女性活躍・男女共同参画の重点方針を毎年6月をめどに決定し、各府省の概算要求への反映を図っています。
女性活躍・男女共同参画の重点方針2023においては、
政府は、一丸となって、男女共同参画社会基本法に基づく「第5次男女共同参画基本計画」(令和2年 12 月 25 日閣議決定、以下「5次計画」という。)を着実に実行していく。このため、5次計画に掲げられた具体的な取組については、本重点方針における記載の有無にかかわらず、着実に実施する。その上で、5次計画で決定した成果目標の達成や施策 の実施に向けた取組の更なる具体化を行うとともに、新たに取り組む事項として、
Ⅰ 女性活躍と経済成長の好循環の実現に向けた取組の推進
Ⅱ 女性の所得向上・経済的自立に向けた取組の強化
Ⅲ 女性が尊厳と誇りを持って生きられる社会の実現
Ⅳ 女性の登用目標達成(第5次男女共同参画基本計画の着実な実行)
について、政府全体として今後重点的に取り組むべき事項を定める。政府は、本重点方針 に基づき、横断的な視点を持って、速やかに各取組を進めるとしています。
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説明資料 (gender.go.jp)
本文 (gender.go.jp)