目次目次

しっかり学ぼう!働くときの基礎知識

働く方へ

働き方改革って、な~に?

キャラクターキャラクター
今、日本が直面する「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」、「働く方々のニーズの多様化」などの課題に対応するためには、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境をつくることが必要となっています。
そのためには、働く人の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現することが重要です。
「働き方改革」とは、働く方一人ひとりが個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で「選択」できるようにすることにより、成長と分配の好循環を構築することで、より良い将来の展望を持てるようにすることを目指す改革です。
ここでは、働き方改革関連法の制定までの経過に触れた後に、「働き方改革」に係る主要な事項について説明していきたいと思います。

1はじめに〜働き方改革関連法の制定までの経緯

政府は「一億総活躍社会」の実現を最重要課題として、この実現のために、3つの矢、すなわち、第1の矢は「希望を生み出す強い経済」、第2の矢は「夢をつむぐ子育て支援」、第3の矢は「安心につながる社会保障」が掲げられました。しかし、現状の「日本の働き方」に見られる正社員の長時間労働や非正規雇用労働者の処遇の低さなどがこの3本の矢を阻んでいることから、一億総活躍社会の実現に向けた最大のチャレンジとして、政府全体としてこのような働き方の現状を改革するための「働き方改革」に取り組むこととされました。
具体的には、2017年(平成29年)3月28日、政府の「働き方改革実現会議」において、働き方改革実行計画(以下「実行計画」といいます。)が決定されました。

そして、実行計画に基づき、労働基準法の改正案を初めとして主要8つの法律で構成される「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(以下「働き方改革関連法」といいます。)案が国会に提出され、2018年(平成30年)6月末に可決成立しました。
以下では実務上大きな影響のある時間外労働の上限規制、年5日の年次有給休休暇の付与義務および同一労働同一賃金を中心に解説します。

働き方改革実行計画
働き方改革実現会議は、安倍総理が自ら議長となり、労使団体代表者と有識者が参集し、「働く人の視点に立った働き方改革」を目指したものです。実行計画の冒頭では、働き方改革とは「日本の企業文化、日本人のライフスタイル、日本の働くということに対する考え方そのものに手を付けていく改革」であり、社会を変えるエネルギーが必要であると強調しています。
その上で、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を選択可能とする社会の実現と生産性の向上を大きな目標として掲げ、長時間労働の是正、同一労働同一賃金の実現、その他全体で11の分野に係る改革の実行計画(最も重要な課題についてはロードマップを示しています。)を策定しています。

2時間外労働の上限規制について

1.これまでの時間外労働規制と実行計画との関係

労働基準法(以下「労基法」といいます。)の改正前においても労基法32条においては使用者に対し罰則付きで1日8時間、1週40時間以内の労働を義務づけていますが、労基法36条はその例外として、時間外労働・休日労働に関する労使協定(いわゆる36協定)を締結し、労働基準監督署に届け出ていれば、36協定で定めた延長時間数の範囲で時間外労働をさせても労基法32条違反とはならないこととしています。しかし、従来、労基法においては、この延長時間数の上限は設けられていませんでした。

これまでの延長時間の規制
従来の36協定については、「限度基準告示」(労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準(平成10年労働省告示154号))において、1ヶ月45時間、年間360時間など延長時間数の限度となる基準が示されていました。ただし、その例外として、臨時的な特別の事情がある場合には、限度基準告示を超えて年6月以内であれば時間外労働をできる「特別条項」を設けることが可能とされ、この特別条項における延長時間数はその限度が設けられていませんでした。

このような中で、実行計画においては、経団連と連合との間において「時間外労働の上限規制等に関する労使合意」が2017年(平成29年)3月に妥結に至ったことを受け、時間外労働の上限規制を打ち出し、それを基に策定された「働き方改革関連法」の成立により、次のような労基法の改正が行われました。

2.時間外労働時間の上限規制の内容について
(1)36協定における上限規制

改正労基法における時間外労働の上限規制として、まず36協定で定める延長時間は、原則として月45時間、かつ、年360時間(1年単位の変形労働時間制の場合は、原則として月42時間、かつ、年320時間)を限度時間とすることが法律で明確に定められました。(改正労基法36③④)
ただし、通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合には、特別に以下①及び②を満たすことを条件に、特別条項として限度時間を超える延長時間を協定することが許容されます。(改正労基法36⑤)

①時間外労働の限度の原則は、月45時間、年360時間であることに鑑み、月45時間を上回る特例の適用は、年半分を上回らないよう、年6回を上限とする。

②特別条項で定めることができる延長時間は、月100時間未満(休日労働を含む時間)、年720時間を超えない範囲(休日労働を含まない時間)とする。

(2)実労働時間における上限規制

上記(1)の36協定の範囲内で労働時間を延長させ、休日に労働させる場合であっても、超えることができない実労働時間の上限として、以下の①・②を新たに定めました。(改正労基法36⑥(2)(3))

①1か月について、労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させた時間が100時間未満であること。

②労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させた時間について、「2か月平均」「3か月平均「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」が全て1か月当たり80時間を超えないこと。
この上限規制に違反した場合には、それぞれ罰則規定が設けられ、実効性が担保されています。(改正労基法119(1))

(3)時間外労働の上限規制関連の施行期日

大企業について、2019年(平成31年)4月1日から施行、中小企業については2020年(令和2年)4月1日から施行されています。

(4)適用除外業種等について

改正労基法における時間外労働の上限規制については、働く人の視点に立って働き方改革を進める方向性を共有したうえで、実態を踏まえる必要があるとの観点から、適用猶予・適用除外措置が定められています。

ア 適用猶予の対象

①自動車の運転業務
2024年(令和6年)3月31日までの間は適用猶予とし、2024年(令和6年)4月1日から年960時間以内の規制が適用されます。他方で、時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満、2〜6ヶ月平均80時間以内とする規制および時間外労働がつき45時間を超えることができるのは年6ヶ月までとする規制は適用されません(詳細はこちら)。さらに将来的な上限規制の全面適用について引き続き検討を進めることとされています。なお2024年4月1日から、自動車運転者の労働時間等のための基準(改善基準告示)の改正が施行される点にも留意する必要があります(詳細はこちら)。

②建設事業
2024年(令和6年)3月31日までの間は適用猶予とし、2024年(令和6年)4月1日から罰則付き上限規制の一般則を適用することとしました。ただし、復旧・復興工事の場合は、2024年(令和6年)4月1日以降であっても、単月で100時間未満、2ヶ月ないし6ヶ月の平均で月80時間以内の条件は適用しないこととされています。併せて将来的な上限規制の全面適用について引き続き検討を進めることとされています。

③医師
2024年(令和6年)3月31日までの間は適用猶予とし、2024年(令和6年)4月1日から新たな規制を適用することとしています。新たな医師の時間外労働規制の内容については、勤務医の区分ごと差異を設け、時間外労働の上限設定等を行うものです。詳細については以下URLを参照ください (こちら)

④鹿児島県、沖縄県における砂糖製造業
2024年(令和6年)3月31日までは時間外労働の上限規制のうち、時間外労働と休日労働の実労働時間規制(月100時間未満、2~6か月平均80時間以内)は適用猶予とされていましたが、2024年4月1日以降は、時間外労働の上限規制が原則通りに適用されます。

イ 適用除外の対象

新技術・新商品等の研究開発の業務については、上限規制の適用除外とされています。そのため、過重労働防止の観点から、週当たり40時間超の労働時間が月100時間を超える場合には本人の申出がなくとも医師による面接指導を罰則付きで義務付けるなど実効性のある健康確保措置が課されています。

3.過重労働防止のための健康確保対策にいて

改正された労働安全衛生法(以下「改正安衛法」)によって、過重労働防止のための健康確保措置が次のとおり強化されました。この改正は2019年(平成31年)4月1日からすべての企業を対象に施行されています。

①医師による面接指導の強化
過重労働防止のための医師による面接指導は、これまでは週当たり40時間を超える労働時間が月100時間超の労働者で申出を行ったものを対象に行うことが義務付けられていましたが、安衛法の改正により月80時間超の労働者で申出を行ったものに拡大されています。(改正安衛法66の8)
なお、新技術・新商品等の研究開発の業務に従事する労働者については、時間外労働の上限規制が適用除外となっているため、健康確保措置を強化することとし、週当たり40時間を超える労働時間が月100時間超の労働者については、申出がなくとも医師による面接指導を義務付け、これに違反する場合には罰則規定が設けられています。(改正安衛法66の8の2、120)

②労働時間の状況の把握
上記の労働時間の把握方法については、これまでは特段の規定はありませんでしたが、安衛法の改正により、管理監督者等も含めた労働者について、その労働時間の状況(労働者がいかなる時間帯にどの程度の時間、労務を提供し得る状態にあったかの状況)をタイムカードの記録、パソコンの使用時間の記録等の客観的な方法によって適切に把握することが原則とされました。ただし、やむを得ず客観的な方法により労働時間の状況を把握し難い場合においては、労働者からの自主申告による方法(一定の要件を充たすことが必要)が認められます。(改正安衛法66の8の3)

4.勤務間インターバル制度について

長時間労働による健康障害防止の観点から、勤務間インターバル制度導入の必要性が高まっています。「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」(労働時間等設定改善法)の改正により、事業者主は前日の終業時刻と翌日の始業時間の間に一定時間の休息の確保に努めなければならない旨の努力義務規定が設けられ、2019年(平成31年)4月1日から施行されています。
政府は、中小企業への助成金の活用、好事例の周知などを進めており、今後の勤務間インターバル制度の導入促進を図ることとしています。

3年5日の年次有給休暇の取得義務について

1.概要

これまで年次有給休暇(以下「年休」)は労働者からの請求がなければ実際に年休を付与する必要はありませんでしたが、改正労基法では、年休の取得促進を目的に、2019(平成31年)年4月1日以降、10日以上の年休が付与される労働者(パートタイム労働者、管理監督者も含みます。)に対し、その基準日(採用後6月経過日及びその後1年ごとの応当日をいいます。※)から1年以内に5日について、取得時季を指定して年休を取得させる義務が使用者に課せられることとなりました(改正労基法39条7項参照)。これに違反した場合には、新たに罰則規定(30万円以下の罰金)も設けられ、その実効性が担保されています。
なお、当該義務が生じるのは当該年度ごとに10日以上の年休が付与された場合であり、繰り越し分を含めたものではありません。
他方で、労働者が前年度からの繰越分の年休を取得した場合は、使用者が時季指定すべき5日の年休からその日数分を控除することとなります。

※年休を全部または一部前倒ししている場合の基準日の取扱いは厚労省HP「年次有給休暇の時季指定義務について」参照)

2.時季指定の時期

使用者による時季指定の時期は、必ずしも基準日からの1年間の期首に限られず、当該期間の途中に行うことも可能です。したがって、2019年4月以降の基準日時点でただちに使用者に指定義務が課せられるものではありません。基準日から1年以内に、労働者本人が自ら5日(1日単位または半日単位でも可)の年休を取得したり、計画年休をもって5日分の付与がなされた場合には、使用者の年休時季指定義務自体が消滅します。このため、年休5日付与義務への対応にあたっては、一般的に計画年休制度の導入や会社独自で夏休み時期等の年休取得促進をもって、年休5日以上の付与を進めることが適切でしょう。

リフレッシュ休暇などの会社独自休暇(有償)と年休5日付与義務との関係
◆会社が法定の年休制度とは別に、様々な有償休暇制度を独自に設けている場合が見られます。例えば、労基法第115条の時効が経過した後においても、取得の事由や時季を限定せず、法定の年休を引き続き取得可能としている場合(いわゆる失効積立年休制度等)のように、 法定の年休日数を上乗せするものとして付与される特別休暇であれば、当該休暇を取得した日数分については、使用者が時季指定すべき年5日の年休の日数から控除して差し支えありません。このため、法定の年休に加えて、取得理由や取得時期が自由で、年休と同じ要件で同じ賃金が支給される「リフレッシュ休暇」を会社独自に設けて毎年労働者に付与し、付与日から1年間利用できることとしている場合において、毎年、年間を通じて労働者が当該休暇を自由に取得することができ、その要件や効果について、当該休暇の付与日(※)からの1年間(未消化分はさらに次の1年間繰り越して取得可能なもの)において法定の年休の日数を上乗せするものであれば、当該休暇を取得した日数分については、使用者が時季指定すべき年5日の年休の日数から控除して差し支えありません。
(※)当該休暇の付与日は、法定の年休の基準日と必ずしも一致している必要はありません。
◆他方で、取得理由や時期があらかじめ定められた有償休暇(例えば会社の創立記念日を特別有償休日としている等)については、使用者が時季指定すべき年5日の年休から控除することはできません。

なお、本改正を受けて、会社独自の有償休暇制度を廃止し、代わりに使用者による年5日の年休指定等に振り替えるような会社対応は法改正の趣旨に沿わないものであるとともに、労働者と合意することなく就業規則を変更することにより特別休暇を年休に振り替えた後の要件・効果が労働者にとって不利益と認められる場合は、就業規則の不利益変更法理に照らし合理的なものである必要がありますので注意が必要です。

休業後の復職と年休5日取得義務との関係
基準日から1年以内の年休付与期間中に育児・介護、その他私傷病などを理由に休職した後、付与期間途中に復職する場合があります。付与期間以前から休職しており、期間中に一度も復職しなかった場合などは、使用者にとって義務の履行が不可能な場合にあたりますので法違反とはなりません。
他方で付与期間の途中に育児休業から復職した場合、復職段階でなお年休5日取得が可能であれば、当該義務は免責されませんが、付与期間満了直前(残りの所定労働日数が5日未満)に復職する場合には、そもそも残りの期間における労働日が時季指定すべき年休残日数よりも少なく、もはや5日の年休を取得させることが不可能なので法違反とはなりません。
異動(出向・転籍等)と年休5日付与義務との関係
付与期間中に在籍出向・転籍などの人事異動があった場合には次のような取り扱いとなります。
《在籍出向の場合》労基法上の規定はなく、出向元、出向先、出向労働者三者間の取り決めによります(基準日及び出向元で取得した年休の日数を出向先の使用者が指定すべき5日から控除するかどうかについても、取り決めによります。)。この3者の取り決めは「出向覚書」等でなされるのが通例ですが、今後の在籍出向に際しては、出向後の年5日年休指定義務に係る取扱いを明確に定めておくことが望まれます。
《転籍(移籍出向)の場合》出向元と出向労働者との間の労働契約がいったん終了するため、原則としては、転籍前は出向元、転籍後は出向先に各々付与期間中の年休指定義務が別々に生じます。しかしながら、基準日から1年間の期間の途中で労働者を転籍させる場合には、出向元・先双方の対応が煩雑になるため、以下の要件全てを満たす場合に限り、出向の前後を通算して5日の年休の時季指定を行うこととして差し支えありません。
①出向時点において出向元で付与されていた年休日数及び出向元における基準日を出向先において継承すること
②出向日から6箇月以内に、当該出向者に対して10日以上(①で継承した日数を含む。)の年休を出向先で保障すること
③出向前の期間において、当該労働者が出向元で年5日の年休を取得していない場合は、5日に不足する日数について、出向元における基準日から1年以内に出向先で時季指定する旨を出向契約に明記していること
3.年休5日取得義務への対応

実務対応上の準備としては、まず直近年の年休取得5日未満の労働者(管理監督者等も含む。)をリストアップし、年休未取得の要因分析を行い、早い段階から取得勧奨を行うことが考えられます。その上で基準日から半年経過以降、年休取得が3〜4日未満の労働者がいる場合、年休取得計画を策定し、その後の取得状況が芳しくないようであれば、労働者本人の意向を聴取した上で使用者による時季指定を行う対応が一例としてあげられます。また今回の改正に併せて、使用者には、労働者ごとに年次有給休暇管理簿(取得時季、日数及び基準日を記載)の作成、就業規則への記載も義務づけられており対応が必要です。

就業規則の規定例
●条●項(使用者による年休時季指定義務)
(略)年次有給休暇が10日以上与えられた労働者に対しては(略)、付与日から1年以内に、当該労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日について、会社が労働者の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。ただし、労働者が(略)年次有給休暇を取得した場合においては、当該取得した日数分を5日から控除するものとする。

4同一労働同一賃金について

1.パートタイム・有期雇用労働法、改正労働者派遣法の成立及び同一労働同一賃金ガイドラインの策定までの経緯

「働き方改革実現会議」において2016年(平成28年)12月20日、政府は正規雇用労働者と非正規雇用労働者の待遇の相違が不合理か否かの原則となる考え方と具体例を示した「同一労働同一賃金ガイドライン案」を提示しました。このガイドライン案は、正規雇用か、非正規雇用かといった雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇を確保し、同一労働同一賃金の実現に向けて策定されたものです。このガイドライン案を踏まえ取りまとめられた働き方改革実行計画では法改正の方向性として同一労働同一賃金に向けての基本的考え方を示した上で、「今後、本ガイドライン案を基に、法改正の立案作業を進める。本ガイドライン案については、関係者の意見や改正法案についての国会審議を踏まえて、最終的に確定し、改正法の施行日に施行することとする」こととされました。
実行計画を受け労働政策審議会は、2017年(平成29年)6月16日付で「同一労働同一賃金に関する法整備について(報告)」を取りまとめ、これを基に策定されたパートタイム労働法、労働契約法及び労働者派遣法の改正法案が策定されました。これら改正法案を一括した「働き方改革関連法」の成立により、同一労働同一賃金を内容とした「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以下「パートタイム・有期雇用労働法」といいます。)及び改正労働者派遣法が成立しました。

2.同一労働同一賃金ガイドライン

同一労働同一賃金ガイドライン案を基本に、2018年(平成30年)12月28日に「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(同一労働同一賃金ガイドライン)が策定され、パートタイム・有期雇用労働法、改正労働者派遣法の施行に合わせて適用されます。
なお、同指針の内容は、2018年(平成30年)6月に示された長澤運輸事件・ハマキョウレックス事件最高裁判決を踏まえ同ガイドライン案を一部修正したものとなっています。

「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」
https://www.mhlw.go.jp/content/000473042.pdf

3.パートタイム・有期雇用労働法の概要
(1)均等・均衡待遇規定の充実

パートタイム・有期雇用労働法では、従来パートタイム労働者のみを対象としていた通常の労働者(いわゆる正規雇用労働者及び無期雇用フルタイム労働者)との均等待遇規定を、有期雇用労働者もあわせて対象として、事業主に義務付ける規定に改正されました(パートタイム・有期雇用労働法9条)。
また、均衡待遇の規定についても、有期雇用労働者を対象とし、その判断基準の明確化を図るための改正が行われました(パートタイム・有期雇用労働法8条)。

パートタイム・有期雇用労働法8条
「事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇それぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して不合理と認められる相違を設けてはならない」

この改正によって、まずパート労働者と有期雇用労働者に対する均等待遇規定の不整合性が解消されることになります。
また、これまでの同種規定(パートタイム労働法8条、労働契約法20条)では不合理性の判断基準が明確ではなかったことから、パートタイム・有期雇用労働法における均衡待遇規定においては、不合理性の判断基準として「当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮」することが明確化されました。

(2)労働者に対する説明義務

均等・均衡待遇にかかる紛争が生じた場合、待遇の相違が不合理であるとの評価を基礎付ける事実については労働者が、当該相違が不合理ではないという事実については事業主が立証責任を負うこととなります。しかし、パートタイム労働者・有期雇用労働者が、自らの待遇の内容に加え、正規雇用労働者との待遇差に関する情報を事業主から適切に得ることは難しいのが現実です。事業主しか持っていない情報のために、労働者が訴えを起こすことができない、争訟において不利になるといった状況が生じます。今回の法改正では、このようなことがないようにするため、事業主に対し、比較対象となる正規雇用労働者の「待遇差の内容やその理由等」に関するパートタイム労働者・有期雇用労働者への説明義務を課すこととしました。
さらに、有期雇用労働者についても、パートタイム労働者と同様に、労働者を雇い入れた際の雇用管理上の措置の内容に関する説明義務が整備されました。
併せて、労働者が説明を求めたことを理由とした不利益取扱いも禁止されています。(パートタイム・有期雇用労働法14条

(3)紛争解決手続の整備

パートタイム労働者にのみ認められていた紛争調整委員会における調停制度等の裁判外紛争解決手続(行政ADR)が、有期雇用労働者も対象として整備されました。

(4)施行期日

パートタイム・有期雇用労働法の、施行期日については、大企業については2020年(令和2年)4月1日から施行されていたところ、中小企業についても2021年(令和3年)4月1日から全面施行されています。

4.改正労働者派遣法の概要
(1)改正労働者派遣法の趣旨

「パートタイム・有期雇用労働法」の制定によるパート労働者及び有期雇用労働者の待遇改善に合わせ、派遣労働者についてもその待遇改善を図るため労働者派遣法の改正(以下「改正労働者派遣法」といいます。)が行われ、2020年(令和2年)4月1日から施行されることとなりました。
改正労働者派遣法では、派遣労働者の待遇の改善等を図るための各種規定が設けられていますが、その特徴は雇用主と業務の指揮命令者が異なるという派遣労働の特性を踏まえた待遇改善を派遣元事業主に義務化したことです。この義務化に関連して派遣先の義務も創設されています。

(2)派遣先均等・均衡方式

派遣労働者の待遇改善を図るための方法の一つとして、派遣先均等・均衡方式があります。派遣元事業主が、派遣労働者の待遇を派遣先の通常の労働者の待遇と比較して均等・均衡のとれたものとする方式です。(改正労働者派遣法30の3①)。
具体的には、派遣元事業主が、派遣労働者の各待遇と派遣先の通常の労働者(いわゆる正規職員)の待遇について、その職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情のうち、当該待遇の性質、目的に照らして適切と認められるものを考慮して、両者の間に不合理な相違を設けないようにするものです。これが均衡待遇です。
また、派遣労働者の中でも、派遣先の通常の労働者と職務内容が同一で、かつ派遣就業が終了する全期間中の職務内容及び配置の変更の範囲が同一と見込まれる者については、全ての待遇について、正当な理由がなく、派遣先の通常の労働者と比較しての不利なものとすることが禁止されます(改正労働者派遣法30の3②)。これが均等待遇です。

(3)労使協定方式

派遣労働者の待遇改善を派遣先均等・均衡方式によることが原則ですが、この方式によることとした場合には、派遣先が変わる度にその賃金水準が変わり派遣労働者の賃金が不安定になるおそれがあることや派遣労働者の希望が賃金水準が高い大企業へ偏ることにより派遣元事業主が派遣労働者のキャリアアップを図るための適切な配置が困難になるなどのデメリットもあることから、派遣元事業主が労働者の過半数代表(労働者の過半数を代表する労働組合がある場合には当該組合、当該組合がない場合には労働者の過半数を代表する者)と、派遣労働者の賃金が派遣先等の地域における同種の業務に従事し同程度の能力、経験を有する一般労働者の平均的な賃金額と同等以上となることなどの事項について協定を締結した場合には、協定適用の派遣労働者には基本的に派遣先均等・均衡方式は適用されず、協定で定めるところにより待遇が決まることとなります(以下「労使協定方式」といいます。)(改正労働者派遣法30の4)。

(4)派遣先の情報提供義務

派遣先には、派遣元事業主が上記規定を遵守できるよう、派遣元事業主に対し、派遣先で比較すべき通常の労働者についての待遇の内容等についての情報を提供する義務等が課せられています(改正労働者派遣法26⑦⑧⑩)。派遣先がこの情報提供をしない場合には、派遣元事業主には労働者派遣契約を締結することが禁止されていますので、注意が必要です(改正労働者派遣法26⑨)。

(5)その他の改正

上記のほか、派遣元業主に対する派遣労働者の待遇についての説明義務の強化、派遣先の派遣料金の配慮義務の創設、紛争解決のための調停制度等の裁判外紛争解決手続の整備等、パートタイム・有期雇用労働法と同趣旨の改正が行われています。

5その他

実行計画には、時間外労働の上限規制の導入等の長時間労働の是正、同一労働同一賃金など非正規雇用労働者の処遇改善のほかにも、9つの分野(「賃金引き上げと生産性向上」「柔軟な働き方がしやすい環境整備」「女性・若者の人材育成など活躍しやすい環境整備」「病気の治療と仕事の両立」「子育て・介護等と仕事の両立、障害者の就労」「雇用吸収力、付加価値の高い産業への転職・再就職支援」「誰にでもチャンスのある教育環境の整備」「高齢者の就業促進」「外国人材の受け入れ」)に及ぶ改革の方向性が示されており、これらそれぞれの分野において働き方改革に向けた新たな取組が進められています。

働き方改革関連法の詳細は
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322_00001.html