裁判例

7.退職

7-2 「有期契約・雇止め」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性

基本的な方向性

(1) 期間を定めた労働契約については、その期間が満了した場合は、本来その労働契約は終了します。
(2) ただし、有期労働契約を反復更新した場合については、①期間の定めのある労働契約が反復更新されたことにより期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態に至っている場合や、②反復更新の実態、契約締結時の経緯等から雇用継続への合理的期待が認められる場合には、解雇権濫用法理が類推適用され、合理的な理由がなければ雇止めできません。

東芝柳町工場事件(S49.07.22最一小判)

【事案の概要】
(1) Xら7名は、Y社A工場において契約期間を2か月とする臨時従業員として雇用されたが、5回ないし23回にわたり契約が反復更新された後、Y社から、契約期間満了をもって更新はしない旨(雇止め)の意思表示を受けた。これに対しXらが、当該雇止めの無効を主張し、労働契約確認等を求めて提訴したもの。
(2) 最高裁においては、東京高裁と同様にXら7名のうち6名について請求を認めた。
【判示の骨子】
(1) 本件各労働契約は、実質において、当事者双方とも、期間は一応2か月と定められてはいるが、いずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を締結する意思であったものと解される。したがって、本件各労働契約は、期間の満了毎に当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたものといわなければならない。
(2) 本件各雇止めの意思表示は上記のような契約を終了させる趣旨の下にされたのであるから、実質において解雇の意思表示にあたる。そうである以上、本件各雇止めの効力の判断にあたっては、その実質にかんがみ、解雇に関する法理を類推すべきである。

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日立メディコ事件(S61.12.04最一小判)

【事案の概要】
(1) Y社の柏工場において2か月の労働契約を5回にわたって更新してきた臨時員Xは、契約の更新を拒絶されたため、本件労働契約は期間の定めのないものに転化したか、労働関係は期間の定めのない契約が存在するのと実質的に異ならない状態となっていたと見るべきであり、本件更新の拒絶は解雇権の濫用ないしは信義則違反として無効であるとして提訴した。
(2) 千葉地裁はXの請求を認めたが、東京高裁、最高裁ともY社のXに対する雇止めの効力を認め、Xの請求を棄却した。
【判示の骨子】
(1) Xは、臨時的作業のために雇用されるものではなく、雇用関係はある程度の継続が期待されており、5回にわたり契約が更新されていることから、雇止めに当たっては、解雇に関する法理が類推される。
(2) しかし、右臨時員の雇用関係は比較的簡易な採用手続で締結された短期的有期契約を前提とするものである以上、雇止めの効力を判断すべき基準は、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結して正社員を解雇する場合とはおのずから合理的な差異があるべきである。
(3) したがって、独立採算制がとられているY社の柏工場において、事業上やむを得ない理由により人員削減をする必要があり、その余剰人員を他の事業部門へ配置転換する余地もなく、臨時員全員の雇止めが必要であると判断される場合には、これに先立ち、正社員について希望退職者募集の方法による人員削減を図らずに臨時員の雇止めが行われてもやむを得ない。

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福原学園(九州女子短期大学)事件(H28.12.01最一小判)

【事案の概要】
(1) Yに1年間の有期雇用契約(更新上限は3年間)を定める非常勤講師として採用されたXが、初回の契約更新がなされず雇い止めされた。Xは当該雇い止めを争うとともに、雇い入れから3年後には、Y規程に基づき、期間の定めのない専任教員に転換されたものとして、地位確認を求めた。
・Y規程では「勤務成績を考慮し、Yがその者の任用を必要と認め、かつ、当該者が希望した場合は、契約期間が満了するときに、期間の定めのない職種に異動することができるものとする」と定められていた。
(2) 原審(福岡高判H26.12.12)は、本件有期労働契約(更新上限3年)が試用期間であり、特段の事情のない限り、無期労働契約に移行するとの期待に合理性があるとし、X側の請求を概ね認容したが、本最高裁判決は、概略以下理由を挙げ、原審判断を破棄自判した。
(3) 近年、パート・有期雇用労働者等を対象に、会社独自の正社員登用制度を設ける例が増えているが、有期契約労働者の雇い止めが無効となった場合、一定の期間経過後、自動的に正社員登用がなされたものといえるかにつき、最高裁が事例的判断を示したものである。
【判示の骨子】
(1) 本件労働契約は、期間1年の有期労働契約として締結されたものであるところ,その内容となる本件規程には,契約期間の更新限度が3年であり,その満了時に労働契約を期間の定めのないものとすることができるのは,これを希望する契約職員の勤務成績を考慮してYが必要であると認めた場合である旨が明確に定められていたのであり,Xもこのことを十分に認識した上で本件労働契約を締結したものとみることができる。
(2) 上記のような本件労働契約の定めに加え,Xが大学の教員としてYに雇用された者であり,大学の教員の雇用については一般に流動性のあることが想定されていることや,Yの運営する三つの大学において,3年の更新限度期間の満了後に労働契約が期間の定めのないものとならなかった契約職員も複数に上っていたことに照らせば,本件労働契約が期間の定めのないものとなるか否かは,Xの勤務成績を考慮して行うYの判断に委ねられているものというべきであり,本件労働契約が3年の更新限度期間の満了時に当然に無期労働契約となることを内容とするものであったと解することはできない。そして,前記・・・の事実関係に照らせば、Yが本件労働契約を期間の定めのないものとする必要性を認めていなかったことは明らかである。
(3) また,有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換について定める労働契約法18条の要件をXが満たしていないことも明らかであり、他に本件事実関係の下において,本件労働契約が期間の定めのないものとなったと解すべき事情を見いだすことはできない。

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博報堂事件(R2.3.17福岡地判)

【事案の概要】
(1) Xは、大学卒業後の昭和63年4月、広告事業等を営むY社に新卒採用で入社した。契約形態は1年の有期雇用契約で、XとY社はこの契約を29回にわたって更新した。Xの入社から平成25年までは、更新日前後にY社から封筒に入った契約書を渡され、Xがそれに署名押印するだけで契約が更新されていた。
(2) Y社は、平成20年4月、契約社員就業規則を改訂し、有期契約の通算期間が5年を超える場合原則として契約を更新しないとする「最長5年ルール」を設けた。この時点では、通算契約期間が5年を超えていたXらは同ルールの適用対象外とされていたが、平成24年改正労契法の施行(平成25年4月)に伴い、Y社は、Xらに対しても、平成25年4月を起算点として同ルールを適用することとした。Y社の人事部長は、平成25年1月、Xと面談をし、5年を契約更新の上限とすること、会社として転職を支援すること等を説明した。その後、XとY社は、「2018年3月31日以降は契約を更新しないものとする」旨の条項(「不更新条項」)が付された平成25年4月1日付けの雇用契約書を取り交わし、Xはこれに署名押印した。平成26年からは毎年2月頃にY社がXに対して契約更新通知書を交付し、面談の上、不更新条項付きの雇用契約書が取り交わされ、Xはこれらに署名押印した。
(3) Y社は、事務系契約社員の6年目以降の契約については、本人の希望と業務実績により会社が適当と判断した場合に更新することとし、契約社員の目標管理シートを作成した。Xの目標管理シートの目標達成度(部署長コメント欄)は、平成25年度、26年度、28年度、29年度は「期待水準通り」(27年度は「記載なし」)であった。
(4) 平成29年2月、Y社は、契約更新前の面談において、平成30年3月をもって契約は終了する旨をXに伝え、同年3月、不更新条項付きの雇用契約書をXに渡した。Xはその場で署名押印せずに契約書を一旦持ち帰り、後日これに署名押印してY社に提出した。Xは、福岡労働局に電話で相談し、平成29年12月、Y社代表者宛てに、雇用継続の希望と雇止理由証明書の送付依頼等を伝える書面を送付した。Y社は、同月、Xに対し、更新限度を毎年契約書に記載してきたこと、事務職契約社員の業務は標準化合理化して再構築すること等を記載した書面を送付した。福岡労働局長は、平成30年3月9日、Y社に対し、無期転換回避を目的とした無期転換申込権発生前の雇止めは労契法の趣旨に照らして望ましくないため慎重な対応を求める旨の助言をした。
(5) Y社は、同月30日、Xに対し、契約を終了する旨を伝えた。Xは、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位確認、賃金の支払等を求めて、本件訴えを提起した。
【判示の骨子】
(1) 契約終了の合意の認定には慎重を期する必要があり、Xの明確な意思が認められなければならない。不更新条項が記載された雇用契約書への署名押印の拒否は、Xにとって契約が更新できないことを意味するから、契約書への署名押印から直ちに、Xが契約終了の明確な意思を表明したとみるのは相当でない。むしろ、Xは、雇止めは困ると述べ、労働局に相談するなどの行動をとっている。以上からすれば、本件雇用契約は合意によって終了したものと認めることはできず、Y社は、契約期間満了日にXを雇止めしたものというべきである。
(2) 本件雇用契約は約30年にわたり29回も更新されているが、平成25年以降は、毎年、契約更新通知書を交付し面談を行うようになったこと等から、無期雇用契約と同視するのはやや困難であり、労契法19条1号に直ちには該当しない。
Y社は、Xの新卒入社以降平成25年まで、形骸化した契約更新を繰り返してきたものであり、この時点で、Xの契約更新に対する期待は相当に高く、合理的理由に裏付けられたものというべきである。Y社は、平成25年以降、Xを含めて最長5年ルールの適用を徹底しているが、それも一定の例外(業務実績に基づく更新)が設けられており、Xの高い更新期待が大きく減殺されたとはいえない。Xの更新期待は、労契法19条2号により保護されるべきものである。平成25年以降の契約書等において平成30年3月以降の不更新を確認しているから更新の合理的期待はないとのY社の主張は、それ以前の契約更新の状況等を顧みないものである。
(3) Xの雇止めには、Xの更新期待を前提としてもなお雇止めを合理的であると認めるに足りる客観的な理由が必要である。この点、Y社の主張する人件費の削減や業務効率の見直しの必要性という一般的な理由は、合理性を肯定するには不十分である。Xのコミュニケーション能力の問題については、雇用継続が困難であるほど重大なものとは認め難く、新卒採用後長期間雇用してきたXに対しY社が問題点を指摘し適切な指導を行ったともいえない。本件雇止めは、客観的に合理的で社会通念上相当とは認められないから、Y社は従前の有期雇用契約と同一の労働条件で〔Xの契約更新の〕申込みを承諾したものとみなされる。
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