裁判例

9.無期・有期契約労働者間の格差

9-1 「無期・有期契約労働者間の格差」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性

基本的な方向性

(1) 有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の格差が不合理であるかどうかは、個別の労働条件ごとにその趣旨・性質に照らして判断されます。
(2) 職務内容等が異なる場合でも、その違いを考慮して両者の労働条件が均衡のとれたものであることが求められます(均衡待遇)

大阪医科薬科大学(旧大阪医科大学)事件・最三小判令和2・10・13労判1229号77頁

【事案の概要】
(1)  X(1審原告・控訴人・上告人兼被上告人)は、平成25年1月、医科大学や同附属病院等を運営する学校法人Y(1審被告・被控訴人・被上告人兼上告人)と、同年3月までを契約期間とする労働契約を締結し、以後、時給制のアルバイト職員として、期間1年の労働契約を3度更新して平成28年3月までY法人に雇用されていた。
(2)  Xは、Y法人において、教室事務員として、教授等のスケジュール管理・日程調整、電話・メール・来客・業者対応、各種事務、清掃・ゴミ処理などの主として定型的で簡便な業務を行っていた。Y法人の正職員は、法人全体のあらゆる業務に携わっており、例えば法人の経営計画の管理・遂行など法人全体に影響を及ぼす重要で責任の大きい業務も含まれていた。教室事務員である正職員は当時4名のみであり、簡便な教室事務に加えて、英文学術誌の編集事務、病理解剖に関する遺族等への対応、部門間の連携業務等にも従事していた。正職員には人材の育成・活用を目的とした人事異動が行われ、アルバイト職員の人事異動は例外的・個別的な事情によるものに限られていた。
(3)  本件当時、Y法人の事務系職員には、正職員、契約職員、アルバイト職員、嘱託職員の4種類があり、期間の定めのない職員は正職員のみであった。Y法人では、アルバイトから契約職員、契約職員から正職員への登用制度が設けられており、毎年一定人数の合格実績があった。Y法人の正職員とアルバイト職員の間には、基本給、賞与、年末年始・創立記念日の賃金支給、法定外の年休日数、夏期特別有給休暇、私傷病による欠勤中の賃金、附属病院の医療費補助措置の点で相違があった。Xは、これらの正職員との労働条件の相違は労契法20条に違反するとして、不法行為に基づく損害賠償等を求めて訴えを提起した。
(4)  1審判決(大阪地判平成30・1・24労判1175号5頁)は、上記の労働条件の相違はいずれも労契法20条にいう不合理とは認められないとして、Xの請求を棄却した。これに対し、Xが控訴した。
(5)  原判決(大阪高判平成31・2・15労判1199号5頁)は、①賞与の支給の有無について、Xと同時期に採用された正職員の60%を下回る部分、②私傷病による欠勤中の賃金の有無について、欠勤中の賃金(正職員には6か月間給料の全額が支払われる)のうち給料1か月分、および、休職給(正職員には上記6か月間の経過後休職を命じて標準給与の2割が支払われる)のうち2か月を下回る部分、③正社員に付与される夏期特別有給休暇を付与しないことは、労契法20条にいう不合理な相違と認められるが、④その他、基本給(月給制・時給制の違い、額は2割程度の相違あり)、年末年始・創立記念日の賃金支給(時給制のため支給なし)、法定外の年休日数(年1日の相違あり)、附属病院の医療費補助措置の相違については不合理とはいえないとして、①、②、③の相違に係る損害賠償請求の一部を認容した。
(6)  これに対し、Xは、基本給、賞与(60%を超える部分が不合理でないとされたこと)、年末年始・創立記念日の賃金、法定外の年休日数、業務外の疾病による欠勤中の賃金、医療費補助措置について、Y法人は、賞与(60%を下回る部分が不合理とされたこと)、業務外の疾病による欠勤中の賃金、夏期特別有給休暇について、それぞれ上告・上告受理申立てをしたところ、最高裁は、賞与(①)、私傷病による欠勤中の賃金(②)についてのみ双方の上告受理申立てを上告審として受理し、その他の労働条件の相違については双方の上告受理申立てを不受理として原判決の判断を確定させた。その結果、最高裁では、賞与(①)、および、私傷病による欠勤中の賃金(②)の相違が不合理と認められるかの2点が、争点とされることとなった。

【判旨】原判決一部変更、Xの上告棄却。
(1)  労契法20条は、有期契約労働者の公正な処遇を図るため、期間の定めがあることにより労働条件を不合理なものとすることを禁止したものであり、「労働条件の相違が賞与の支給に係るものであったとしても、それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。もっとも、その判断に当たっては、他の労働条件の相違と同様に、当該使用者における賞与の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである。」
(2)  Y法人の正職員に対する賞与は、通年で基本給の4.6か月分が一応の支給基準となっており、その支給実績に照らすと、算定期間における労務の対価の後払いや一律の功労報償、将来の労働意欲の向上等の趣旨を含むものと認められる。そして、正職員の基本給は、「勤続年数に伴う職務遂行能力の向上に応じた職能給の性格を有するものといえる上、おおむね、業務の内容の難度や責任の程度が高く、人材の育成や活用を目的とした人事異動が行われていたものである。このような正職員の賃金体系や求められる職務遂行能力及び責任の程度等に照らせば、Y法人は、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、正職員に対して賞与を支給することとしたものといえる。」
(3)  Xにより比較の対象とされた教室事務員である正職員とアルバイト職員であるXの職務の内容をみると、Xの業務は相当に軽易であるのに対し、教室事務員である正職員は学内の英文学術誌の編集事務等にも従事する必要があるなど、両者の間に一定の相違があったことは否定できない。また、教室事務員である正職員については、就業規則上人事異動を命ぜられる可能性があったのに対し、アルバイト職員の人事異動は例外的かつ個別的な事情により行われており、両者の配置の変更の範囲に一定の相違があったことも否定できない。
さらに、Y法人においては、人員配置の見直し(業務の過半が簡便な教室事務員のアルバイト職員への置換え)により、教室事務員の正職員は僅か4名まで減少し、業務内容の難度や責任の程度が高く人事異動も行われていた他の大多数の正職員と比べて極めて少数となっていた。アルバイト職員には、契約職員、正職員への試験による登用制度が設けられていた。
(4)  Y法人の正職員に対する賞与の性質や支給目的を踏まえて、教室事務員である正職員とアルバイト職員の職務の内容等を考慮すれば、正職員への賞与の支給額が通年で基本給の4.6か月分であり、労務対価の後払いや一律の功労報償の趣旨が含まれること、契約職員に正職員の約80%に相当する賞与が支給されていたこと、Xへの年間支給額が新規採用正職員の基本給と賞与の合計額の55%程度の水準にとどまることをしんしゃくしても、教室事務員である正職員とXとの間の賞与に係る労働条件の相違は、不合理であるとまで評価することができない。
(5)  Y法人が、私傷病により労務を提供できない正職員に対し給料(6か月間)及び休職給(休職期間中に標準給与の2割)を支給することとしたのは、正職員が長期にわたり継続して就労し、又は将来にわたる継続就労が期待されることに照らし正職員の生活保障を図るとともに、その雇用を維持し確保するという目的によるものと解される。このようなY法人における私傷病による欠勤中の賃金の性質及びこれを支給する目的に照らすと、同賃金は、このような職員の雇用を維持し確保することを前提とした制度であるといえる。
 そして、教室事務員である正職員とアルバイト職員であるXとの間には、前記〔(3)〕の通り、職務の内容、配置の変更の範囲に一定の相違があり、教室事務員である正職員は人員配置の見直し等に起因して極めて少数にとどまり、アルバイト職員には試験による登用制度が設けられていたという事情がある。これらの事情に加えて、アルバイト職員は長期雇用を前提とした勤務を予定しているものとはいい難く、Xの在籍期間も3年余りにとどまり、Xの有期労働契約が当然更新され契約期間が継続する状況にあったことをうかがわせる事情もない。したがって、教室事務員である正職員とXとの間に私傷病による欠勤中の賃金に係る労働条件の相違があることは、不合理と評価することができるものとはいえない。

メトロコマース事件・最判令和2・10・13民集74巻7号1901頁

【事案の概要】
(1)  X1(1審原告・控訴人兼被控訴人・上告人兼被上告人)、X2~X3(1審原告・控訴人・上告人兼被上告人)およびX4(1審原告・控訴人)は、東京メトロの駅構内で物品販売等の事業を営むY社(1審被告・被控訴人兼控訴人・被上告人兼上告人)と契約期間を1年以内とする有期労働契約を締結し、Y社の契約社員Bとして駅構内の売店における販売業務に従事していた(同契約の反復更新によりそれぞれ10年程度勤続し、X2~X4の3名は訴訟提起時〔X4は労契法20条施行前〕に既に退職していた)。
(2)  Y社の雇用区分は、正社員(無期労働契約、月給制、職務限定なし)、契約社員A(有期労働契約、月給制、職務限定あり〔後に職種限定社員に名称変更〕)、契約社員B(有期労働契約、時給制、職務限定あり)に分かれていた。正社員は多様な業務に従事していたが、かつて売店業務を担っていた関連会社C社から組織再編によりY社に正社員として転籍してきたかつてのC社正社員、Y社の契約社員Bから契約社員Aを経て正社員に登用された者など、専ら売店業務に従事する正社員も一部存在していた。売店業務に従事する正社員は、不在となった販売員の代務業務や複数店舗の統括・管理等のエリアマネージャー業務に従事することがあり、売店業務以外への配置転換の可能性もあった。X1らが属する契約社員Bは、売店業務以外に従事することはなく、配置転換や出向を命じられることはなかった。Y社には、契約社員BからAへ、契約社員Aから正社員への登用制度が設けられ、相当数の登用実績があった。
(3)  Y社は、正社員に対し、本給(月給制)、資格手当、住宅手当、賞与、退職金、褒賞、早出残業手当(2時間まで27%、2時間超35%)を支給していた。これに対し、契約社員Bには、本給(時給制)、賞与(一律12万円、年2回)は支給されるが、資格手当、住宅手当、退職金、褒賞の支給はなく、早出残業手当の割増率は25%であった。X1らは、これらの正社員との労働条件の相違は労契法20条等に違反するとして、不法行為に基づく損害賠償等を求めて訴えを提起した。
(4)  1審判決(東京地判平成29・3・23労判1154号5頁)は、早出残業手当の相違のみを不合理と判断して、X1の請求(同手当の相違についてはX1のみが請求していた)の一部を認容し、X2~X4の請求を棄却した。これに対し、X1~X4およびY社の双方が控訴した。
(5)  原判決(東京高判平成31・2・20労判1198号5頁)は、①転居転勤を想定していない正社員にも支給される住宅手当を支給しないこと、②退職金のうち長年の勤務に対する功労報償的性格を有する部分(正社員と同一基準で算定した額の少なくとも4分の1に相当する額)を支給しないこと、③一定期間の勤続により支給される褒賞を支給しないこと、④早出残業手当の割増率が正社員と異なることは、労契法20条にいう不合理の相違と認められる、⑤その他、本給、賞与、資格手当の相違については不合理とはいえないとして、①、②、③、④の相違に係るX1~X3の請求を一部認容した(X4は労契法20条施行前に退職しているため請求棄却)。
(6)  これに対し、X1~X3は、本給、賞与、資格手当、退職金(4分の1を超える部分が不合理でないとされたこと)について、Y社は、住宅手当、退職金(4分の1を下回る部分が不合理とされたこと)、褒賞、早出残業手当について、それぞれ上告・上告受理申立てをしたところ、最高裁は、退職金(②)についてのみ双方(X2・X3およびY社)の上告受理申立てを上告審として受理し、その他の労働条件の相違については双方の上告受理申立てを不受理として原判決の判断を確定させた。その結果、最高裁では、退職金(②)に関する労働条件の相違が不合理と認められるかが、争点とされることとなった。

【判旨】原判決一部変更、X2らの上告棄却。
(1)  労契法20条は、有期契約労働者の公正な処遇を図るため、期間の定めがあることにより労働条件を不合理なものとすることを禁止したものであり、「労働条件の相違が退職金の支給に係るものであったとしても、それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。もっとも、その判断に当たっては、他の労働条件の相違と同様に、当該使用者における退職金の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである。」
(2)  Y社の退職金は、本給に勤続年数に応じた支給月数を乗じた金額を支給するものとされているところ、その支給対象となる正社員は、Y社の本社の各部署や事業本部が所管する事業所等に配置され、業務の必要により配置転換等を命ぜられることもあり、また、退職金の算定基礎となる本給は、年齢によって定められる部分と職務遂行能力に応じた資格・号俸により定められる職能給の性質を有する部分から成るものとされていた。「このようなY社における退職金の支給要件や支給内容等に照らせば、上記退職金は、上記の職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり、Y社は、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたものといえる。」
(3)  そして、X2らにより比較の対象とされた売店業務に従事する正社員と契約社員BであるX2らの職務の内容をみると、売店業務に専従する契約社員Bとは異なり、正社員は不在販売員の代務業務やエリアマネージャー業務に従事するなど、両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できない。また、両者の間には配置転換の有無など配置の変更の範囲にも一定の相違があった。さらに、Y社において売店業務に従事する正社員は、Y社の組織変更に起因して、売店業務に従事する従業員の2割未満となり、他の多数の正社員と職務内容等を異にしていた。また、Y社は契約社員Bから契約社員A、正社員に段階的に職種を変更するための試験による登用制度を設け、相当数の登用をしていた。
(4)  Y社の正社員に対する退職金の複合的な性質や支給目的を踏まえて、売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容等を考慮すれば、契約社員Bの有期労働契約が原則として更新するものとされ、 定年が65歳と定められるなど、必ずしも短期雇用を前提としていたものとはいえず、X2らがいずれも10年前後の勤続期間を有していることをしんしゃくしても、両者の間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることは、不合理であるとまで評価することができるものとはいえない。
なお、契約社員Aが無期労働契約の職種限定社員に改められて退職金制度が設けられたことは、X2らと正社員との間の退職金の相違が不合理であるとの評価を基礎付けるものとはいい難い。また、契約社員Bと職種限定社員との間には職務の内容等に一定の相違があることや、契約社員Bから契約社員Aへの登用制度が存在したこと等からすれば、無期契約労働者である職種限定社員に退職金制度が設けられたからといって、上記の判断を左右するものでもない。
なお、この判決には、労使交渉を経るなどして有期・無期契約労働者間の均衡のとれた処遇を図っていくことは、労契法20条や短時間・有期雇用労働法8条の理念に沿うものであり、有期契約労働者に対し企業型確定拠出年金の導入、個人型確定拠出年金への加入協力、一定額の退職慰労金の支給をすることなども考えられるとする林景一・林道晴裁判官の補足意見、継続的勤務等に対する功労報償という退職金の性質は長期にわたり勤務する契約社員Bにも当てはまり、職務内容や配置の変更範囲も売店業務に従事する正社員と大きな相違はないことからすれば、両者間の退職金の有無に関する相違は不合理と評価でき、原審の判断を破棄するには及ばないとする宇賀克也裁判官の反対意見がある。

日本郵便(東京)事件・最一小判令和2・10・15労判1229号58頁

【事案の概要】
(1)  X1~X3(1審原告・控訴人兼被控訴人・上告人兼被上告人)は、郵便事業を行うY社(1審被告・被控訴人兼控訴人、被上告人兼上告人)と期間6か月以内の有期労働契約を締結し、配達等の郵便外務事務(X1・X2)または郵便内務事務(X3)に従事していた。X1らは、平成19年10月ないし平成20年10月に郵便事業株式会社と有期労働契約を締結して以降、同社およびY社との間で契約更新を繰り返してきた。
(2)  Y社の人事制度では、無期労働契約による正社員と有期労働契約による契約社員が存在し、それぞれ異なる就業規則、給与規定が適用されていた。平成25年度以前の旧人事制度では、正社員についてコース制はとられていなかったが、平成26年度以降の新人事制度では、正社員について管理職、総合職、地域基幹職、新一般職のコース制を導入した。新一般職コースは、郵便内務業務、郵便外務業務等の標準的な業務に従事するもので、昇任や昇格は予定されておらず、転居を伴わない人事異動の可能性があるにとどまる。X1らが属する時給制契約社員は、郵便外務・内務事務のうち特定の定型業務のみに従事し、各事務に幅広く従事することは予定されておらず、昇任・昇格や人事異動はない。時給制契約社員には正社員に登用される制度があり、試験や面接等により選考される。
(3)  X1らが、正社員と時給制契約社員との労働条件の不合理な相違として主張したものは、①外務業務手当、②年末年始勤務手当、③早出勤務等手当、④祝日給、⑤夏期冬期休暇、⑥夏期年末手当、⑦住居手当、⑧病気休暇、⑨夜間特別勤務手当、⑩郵便外務・内務業務精通手当であった。X1らは、これらの正社員との労働条件の相違は労契法20条等に違反するとして、不法行為に基づく損害賠償等を求めて訴えを提起した。
(4)  1審判決(東京地判平成29・9・14労判1164号5頁)は、年末年始勤務手当(②。損害は8割相当額)、夏期冬期休暇(⑤)、住居手当(⑦)、病気休暇(⑧)についての相違を不合理と判断し、X1らの請求を一部認容した。これに対し、X1らおよびY社の双方が控訴した。
(5)  原判決(東京高判平成30・12・13労判1198号45頁)は、②年末年始勤務手当を支給しないこと(損害は支給相当額全額)、⑤夏期冬期休暇を付与していないこと(損害の発生は否定)、⑦転居転勤のない正社員にも支給される住居手当を支給しないこと、⑧正社員には有給で認めている病気休暇を認めていないこと(損害は実際の無給休暇取得分)は、労契法20条にいう不合理な相違と認められる、その他、①外務業務手当、③早出勤務等手当、④祝日給、⑥夏期年末手当、⑨夜間特別勤務手当、⑩郵便外務・内務業務精通手当の相違については不合理とはいえないとして、②、⑦、⑧の相違に係るX1らの請求を一部認容した。
(6)  これに対し、X1らは、④祝日給、⑤夏期冬期休暇(損害の発生が否定されたこと)、⑧病気休暇(実際の無給休暇取得分しか損害を認めていないこと)について、Y社は、②年末年始勤務手当、⑦住居手当、⑧病気休暇(不付与を不合理としたこと)について、それぞれ上告・上告受理申立てをしたところ、最高裁は、年末年始勤務手当(②)についてY社の上告受理申立て、夏期冬期休暇(⑤)についてX1らの上告受理申立て、病気休暇(⑧)についてY社の上告受理申立てを上告審として受理し、その他の労働条件の相違については双方の上告受理申立てを不受理として原判決の判断を確定させた。その結果、最高裁では、年末年始勤務手当(②)および病気休暇(⑧)に関する労働条件の相違が不合理と認められるか、夏期冬期休暇(⑤)の不付与につき損害が生じたといえるかが、争点とされることとなった。

【判旨】Y社の上告棄却、原判決一部破棄・差戻し。
(1)  Y社における年末年始勤務手当は、郵便業務の最繁忙期で、多くの労働者が休日として過ごしている期間(12月29日から翌年1月3日)における勤務の特殊性から基本給に加えて支給される対価としての性質を有するものであり、正社員の業務内容やその難度等に関わらず、所定期間に実際に勤務したこと自体を支給要件とし、支給金額も一律である。このような年末年始勤務手当の性質や支給要件・支給金額に照らせば、その趣旨は、郵便業務を担当する契約社員にも妥当するものである。そうすると、郵便の業務を担当する正社員と本件契約社員との間に職務の内容、配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、両者の間に年末年始勤務手当に係る相違があることは、不合理と評価することができる。
(2)  有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違の不合理性の判断に当たっては、両者の賃金の総額の比較のみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきであるところ、賃金以外の労働条件の相違についても、同様に、個々の労働条件が定められた趣旨を個別に考慮すべきである。
(3)  Y社において、私傷病で欠勤する正社員に有給の病気休暇が与えられているのは、正社員が長期にわたり継続勤務することが期待されることから、その生活保障を図り、私傷病の療養に専念させることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的によるものと考えられ、このことは、使用者の経営判断として尊重し得るものと解される。もっとも、上記目的に照らせば、郵便の業務を担当する時給制契約社員についても、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、私傷病による有給の病気休暇を与えることとした趣旨は妥当するというべきである。そして、Y社の時給制契約社員は、契約期間が6か月以内でX1らのように契約更新を繰り返すなど、相応に継続的な勤務が見込まれている。そうすると、正社員と時給制契約社員との間に、職務内容や配置の変更範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、私傷病による病気休暇の日数につき相違を設けることはともかく、これを有給とするか無給とするかにつき労働条件の相違があることは、不合理であると評価することができる。
(4)  Y社における夏期冬期休暇は、有給休暇として所定期間内に所定日数を取得することができるものであるところ、X1らは、夏期冬期休暇を与えられなかったことにより、当該所定日数につき、本来する必要のなかった勤務をせざるを得なかったものといえるから、上記勤務をしたことによる財産的損害を受けたものということができる。X1らが無給の休暇を取得したか否かなどは、損害の有無の判断を左右するものではない。

日本郵便(大阪)事件・最一小判令和2・10・15労判1229号67頁

【事案の概要】
(1)  X1~X8(1審原告・控訴人兼被控訴人・上告人兼被上告人)は、郵便事業を行うY社(1審被告・被控訴人兼控訴人、被上告人兼上告人)と有期労働契約を締結し(X1~X7は期間6か月以内の契約による時給制契約社員、X8は期間1年以内の契約による月給制契約社員)、郵便配達等の郵便外務事務に従事していた。X1らは、平成19年10月ないし平成22年4月に郵便事業株式会社と有期労働契約を締結して以降、同社およびY社との間で契約更新を繰り返してきた(うち1名は平成28年3月にY社を退職した)。Y社が平成25年度までは旧人事制度、平成26年度からは正社員について新一般職を含むコース制度を導入し運用していた点は、上記の日本郵便(東京)事件(3(2))と同様である。
(2)  X1らが、正社員と労働条件の不合理な相違があると主張したものは、①外務業務手当、②年末年始勤務手当、③早出勤務等手当、④祝日給、⑤夏期冬期休暇、⑥夏期年末手当、⑦住居手当、⑧病気休暇、⑩郵便外務業務精通手当、⑪扶養手当であった。X1らは、これらの正社員との労働条件の相違は労契法20条等に違反するとして、不法行為に基づく損害賠償等を求めて訴えを提起した。
(3)  1審判決(大阪地判平成30・2・21労判1180号26頁)は、年末年始勤務手当(②)、住居手当(⑦)、扶養手当(⑪)についての相違を不合理と判断し、X1らの請求を一部認容した(夏期冬期休暇〔⑤〕、病気休暇〔⑧〕については契約上の地位を確認できないとして不合理性は判断せず)。これに対し、X1らおよびY社の双方が控訴した(X1らは⑤、⑧についての不法行為損害賠償請求等を追加した)。
(4)  原判決(大阪高判平成31・1・24労判1197号5頁)は、②年末年始勤務手当、④祝日給、⑤夏期冬期休暇(損害は休暇日数分)、⑧病気休暇について、通算契約期間5年を超えて相違を設けること、および、⑦住居手当について(通算契約期間にかかわらず)相違を設けることは、労契法20条にいう不合理な相違と認められる、その他、①外務業務手当、③早出勤務等手当、⑥夏期年末手当、⑩郵便外務業務精通手当、⑪扶養手当の相違については不合理とは認められないとして、②、④、⑤、⑦、⑧の相違に係るX1らの請求を一部認容した。
(5)  これに対し、X1らは、②年末年始勤務手当(5年以下は不合理とされなかったこと)、④祝日給(5年以下は不合理とされなかったこと)、⑤夏期冬期休暇(5年以下は不合理とされなかったこと)、⑧病気休暇(5年以下は不合理としなかったこと)、⑪扶養手当について、Y社は、②年末年始勤務手当(5年を超えた時期を不合理としたこと)、④祝日給(5年を超えた時期を不合理としたこと)、⑤夏期冬期休暇(休暇日数分の損害を認めたこと)、⑦住居手当、⑧病気休暇(5年を超えた時期を不合理としたこと)について、それぞれ上告受理申立てをしたところ、最高裁は、年末年始勤務手当(②)についてX1らおよびY社の上告受理申立て、祝日給(④)についてY社の上告受理申立て、夏期冬期休暇(⑤)についてY社の上告受理申立て(損害の認定)、⑪扶養手当についてX1らの上告受理申立てを上告審として受理し、その他の労働条件の相違については双方の上告受理申立てを不受理として原判決の判断を確定させた。その結果、最高裁では、年末年始勤務手当(②)、病気休暇(⑧)、扶養手当に関する労働条件の相違が不合理と認められるか、夏期冬期休暇(⑤)の不付与につき損害が生じたといえるかが、争点とされることとなった。

【判旨】Y社の上告棄却、原判決一部破棄・差戻し。
(1)  〔年末年始勤務手当については、日本郵便(東京)事件・最高裁判決と同様に、不合理な相違といえる。〕
(2)  Y社において正社員に支給されている年始期間の勤務に対する祝日給は、特別休暇が与えられることとされているにもかかわらず最繁忙期であるために年始期間に勤務したことの代償として、通常の勤務に対する賃金に所定の割増しをしたものを支給することとされたものと解される。本件契約社員は、契約期間が6か月以内又は1年以内とされており、X1らのように契約更新を繰り返して勤務する者も存するなど、繁忙期に限定された短期間の勤務ではなく、業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれている。そうすると、最繁忙期における労働力の確保の観点から、契約社員に対して特別休暇を付与しないこと自体には理由があるということはできるものの、年始期間における勤務の代償として祝日給を支給する趣旨は、本件契約社員にも妥当するというべきである。そうすると、正社員と契約社員との間に職務内容、配置の変更範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、上記祝日給を正社員に支給する一方で本件契約社員にはこれに対応する祝日割増賃金を支給しないという労働条件の相違は、不合理であると評価することができる。
(3)  Y社において正社員に扶養手当が支給されているのは、正社員が長期にわたり継続勤務することが期待されることから、その生活保障や福利厚生を図り、扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的によるものと考えられ、このことは、使用者の経営判断として尊重し得るものと解される。もっとも、上記目的に照らせば、本件契約社員についても、扶養親族があり、かつ、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、扶養手当を支給することとした趣旨は妥当するというべきである。そして、Y社の契約社員は、契約期間が6か月以内又は1年以内で、X1らのように契約更新を繰り返すなど、相応に継続的な勤務が見込まれている。そうすると、正社員と契約社員との間に職務内容、配置の変更範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、両者の間に扶養手当に係る相違があることは、不合理であると評価することができる。
(4)  〔夏期冬期休暇の損害の認定については、日本郵便(東京)事件・最高裁判決と同様に、財産的損害を受けたものと認められる。〕

日本郵便(佐賀)事件・最一小判令和2・10・15労判1229号5頁

【事案の概要】
(1)  X(1審原告・控訴人兼附帯被控訴人・被上告人)は、平成22年6月、郵便事業株式会社との間で期間6か月以内の有期労働契約を締結し、同社および同社の合併により成立したY社(1審被告・被控訴人兼附帯控訴人、上告人)との間で契約更新を繰り返して、Y社において時給制契約社員として郵便外務事務に従事していたが、平成25年12月、Y社を退職した。
(2)  Xは、無期労働契約で雇用されている正社員との間の、①外務業務手当、②年末年始勤務手当、③早出勤務等手当、④祝日給、⑤夏期冬期休暇、⑥夏期年末手当、⑨夜間特別勤務手当に加えて、⑩作業能率評価手当〔郵便外務業務精通手当等〕、⑫基本賃金・通勤費等の労働条件の相違は労契法20条に違反するとして、不法行為に基づく損害賠償等を求めて訴えを提起した。
(3)  1審判決(佐賀地判平成29・6・30労経速2323号30頁)は、①外務業務手当、②年末年始勤務手当(損害発生の立証なし)、③早出勤務等手当、④祝日給、⑤夏期冬期休暇、⑥夏期年末手当、⑨夜間特別勤務手当(損害発生の立証なし)、⑩作業能率評価手当〔郵便外務業務精通手当等〕、⑫基本賃金・通勤費に関する労働条件の相違はいずれも不合理とは認められないとして、Xの当該請求を棄却した。これに対し、Xが控訴、Y社が附帯控訴した。
(4)  原判決(福岡高判平成30・5・24労経速2352号3頁)は、⑤夏期冬期休暇を契約社員に付与しないことは労契法20条にいう不合理な相違と認められる(損害は休暇日数分)、その他、①外務業務手当、③早出勤務等手当、④祝日給、⑥夏期年末手当、⑩作業能率評価手当〔郵便外務業務精通手当等〕、⑫基本賃金・通勤費の相違については不合理とは認められないとして、⑤の相違に係るX1らの請求を一部認容した。
(5)  これに対し、Xは、外務業務手当(①)、早出勤務等手当(③)、祝日給(④)、夏期年末手当(⑥)、作業能率評価手当〔郵便外務業務精通手当等〕(⑩)、基本賃金・通勤費(⑫)についての相違が不合理でないとされたこと、Y社は、夏期冬期休暇(⑤)の不付与を不合理としたことおよびその損害の認定について、それぞれ上告・上告受理申立てをしたところ、最高裁は、夏期冬期休暇(⑤)についてのY社の上告受理申立てを上告審として受理し、その他のXおよびY社の上告受理申立てを不受理として原判決の判断を確定させた。その結果、最高裁では、夏期冬期休暇(⑤)に関する労働条件の相違が不合理と認められるか、それにより損害が生じたといえるかが、争点とされることとなった。

【判旨】Y社の上告棄却。
(1)  有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違の不合理性の判断に当たっては、両者の賃金の総額の比較のみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきであるところ、賃金以外の労働条件の相違についても、同様に、個々の労働条件が定められた趣旨を個別に考慮すべきである。
(2)  Y社において、郵便業務を担当する正社員に夏期冬期休暇が与えられているのは、年次有給休暇や病気休暇等とは別に、労働から離れる機会を与えることにより、心身の回復を図るという目的によるものであると解され、夏期冬期休暇の取得の可否や取得し得る日数は上記正社員の勤続期間の長さに応じて定まるものとはされていない。そして、郵便の業務を担当する時給制契約社員は、契約期間が6か月以内とされるなど、繁忙期に限定された短期間の勤務ではなく、業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれているのであって、夏期冬期休暇を与える趣旨は、時給制契約社員にも妥当するというべきである。 そうすると、正社員と時給制契約社員との間に職務内容、配置の変更範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、両者の間に夏期冬期休暇に係る相違があることは、不合理であると評価することができる。
(3)  〔夏期冬期休暇の損害の認定については、日本郵便(東京)事件最高裁判決と同様に、財産的損害を受けたものと認められる。〕

ハマキョウレックス(差戻審)事件(H30.06,01最二小判)

【事案の概要】
(1) Xは、Y社に有期労働契約によってトラック運転手として雇用され、その有期労働契約は、6か月毎に更新されている。
(2) Y社のトラック運転手の職務内容は、無期契約社員と有期契約社員との間で同じである。ただし、有期契約社員には就業場所の変更や出向の予定はされておらず、人材登用も予定されていない。
(3) Y社において、有期契約社員には、無事故手当、作業手当、給食手当、皆勤手当、住宅手当が支給されない。通勤手当は、無期契約社員については通勤距離に応じた額であるが、有期契約社員については3000円の定額であった。
(4) Xは、Y社における無期契約社員と有期契約社員との間における諸手当の相違は労働契約法20条に反するとして、差額の支払いを求めた。

【判示の骨子】
(1) 無事故手当、作業手当、給食手当、皆勤手当、通勤手当は、安全輸送による顧客信頼確保、特定作業への対価、食事費補助、業務円滑化のための皆勤奨励、通勤費補助というそれぞれの趣旨・性質に照らし、有期契約社員へ不支給又は低額支給は不合理である。
(2) 住宅手当は、住宅費補助の趣旨で支給されるものであり、広域転勤が予定される無期雇用社員のみに支給することは不合理でない。

長澤運輸事件(H30.06,01最二小判)

【事案の概要】
(1) Xら3人は、60歳の定年後、Y社と有期労働契約を締結して再雇用されている。Xらの職務内容は正社員と変わらず、業務の都合により勤務場所や職務内容の変更がある点も同様であった。
(2) Xら3人の賃金は定年前とは異なり、基本賃金、歩合給、無事故手当、通勤手当、時間外手当で構成され、また、厚生老齢年金報酬比例部分の支給が開始されるまでは2万円の調整給が支給される。再雇用者の年収は定年退職前の79%となるよう賃金体系が設定されている。
(3) Xらは、定年の前後を通じて職務内容が同じであるにもかかわらず、定年後において賃金が減額されたのは労働契約法20条違反であるとして、差額の支払いを求めた。

【判示の骨子】
(1) 定年後に再雇用されていることは賃金格差を不合理でないとする1つの考慮要素となる。
(2) 再雇用であることと関連のない賃金項目については正社員との均等待遇が求められる。
(3) 再雇用であることと関連する賃金項目についても事情の違いに応じた均衡待遇が求められ、この均衡の幅を判断する際には労使交渉のプロセスや使用者の経営判断(賃金体系の設計)も考慮される。
(4) Y社では、労使交渉を経て、老齢厚生年金報酬比例部分の支給開始までの間に再雇用者に対して2万円の調整給を支給するなど賃金制度設計上の配慮や工夫をしており、年収の2割程度の相違は不合理でない。
(5) 精勤手当について、再雇用者と正社員との間で皆勤を奨励する必要性に相違はなく、再雇用者へ精勤手当の支給されないこと、再雇用者の時間外手当の計算基礎に精勤手当が含まれないことは、不合理である。住宅手当、家族手当、役付き手当、賞与を正社員のみに支給することは、その趣旨・目的に照らして不合理ではない。

名古屋自動車学校事件(R5.7.20最一小判)

【事実】
Ⅰ X1およびX2(原告・控訴人=被控訴人・被上告人)は、自動車学校の経営等を目的とする株式会社Y社(被告・被控訴人=控訴人・上告人)の正職員として勤務し、60歳時に退職金の支給を受けて定年退職した後、Y社に有期労働契約で再雇用され、65歳時まで嘱託職員として教習指導員の業務に従事した。
Ⅱ X1の基本給は、定年退職時には月額18万1640円、再雇用後の1年間は月額8万1738円、その後は月額7万4677円、X2の基本給は、定年退職時には月額16万7250円、再雇用後の1年間は月額8万1700円、その後は月額7万2700円であった。X1は、定年退職前の3年間は1回あたり平均23万3000円の賞与の支給を受け、再雇用後は、1回あたり8万1427円から10万5877円の嘱託職員一時金、X2は、定年退職前の3年間は1回あたり平均22万5000円の賞与の支給を受け、再雇用後は、1回あたり7万3164円から10万7500円の嘱託職員一時金の支給を受けた。
Ⅲ 嘱託職員として勤務していたX1・X2は、正職員との間の基本給、賞与等の相違は労働契約法20条(平成30年法律第71号による改正前のもの。以下同じ)に違反すると主張して、Y社に対し不法行為に基づく損害賠償等を求めて、本件訴えを提起した。第1審(名古屋地判令和2・10・28労判1233号5頁)および第2審(名古屋高判令和4・3・25労判ジャーナル106号2頁)は、X1らの基本給がX1らの定年退職時の基本給の60%を下回る部分、および、X1らの嘱託職員一時金がX1らの定年退職時の基本給の60%に所定の掛け率を乗じて得た金額を下回る部分は、労契法20条にいう不合理と認められるものに当たるとし、X1らの損害賠償請求を一部認容すべきものとした。これに対し、X1・X2およびY社がそれぞれ上告受理申立てをし、最高裁は、Y社の申立てを受理した。

【判旨】原判決中Y社敗訴部分を破毀差戻し。
Ⅰ 労契法20条は、有期契約労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり、有期契約労働者と無期契約労働者の間の「労働条件の相違が基本給や賞与の支給に係るものであったとしても、それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。もっとも、その判断に当たっては、他の労働条件の相違と同様に、当該使用者における基本給及び賞与の性質やこれらを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである」。
Ⅱ Y社の正職員の基本給は、勤続年数による差異が大きいとまではいえないことからすると、勤続給としての性質のみを有するということはできず、職務給としての性質をも有するものとみる余地がある。他方で、一部の正職員に別途支給されていた役付手当の支給額は明らかでなく、正職員の基本給には功績給も含まれていることなどに照らすと、その基本給は職能給としての性質を有するものとみる余地もある。そして、前記事実関係からは、このように様々な性質を有する可能性がある基本給を支給することとされた目的を確定することもできない。

原審は、正職員の基本給につき、年功的性格を有するものであったとするにとどまり、「他の性質の有無及び内容並びに支給の目的を検討せず、また、嘱託職員の基本給についても、その性質及び支給の目的を何ら検討していない。」
また、労使交渉に関する事情を労契法20条にいう「その他の事情」として考慮するに当たっては、「労使交渉の結果のみならず、その具体的な経緯をも勘案すべきものと解される。」
以上によれば、正職員と嘱託職員であるX1らとの間の基本給の金額の相違について、「各基本給の性質やこれを支給することとされた目的を十分に踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、その一部が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断には、同条の解釈適用を誤った違法がある。」

Ⅲ X1らに支給されていた嘱託職員一時金は、正職員の賞与に代替するものと位置づけられていたといえるところ、「原審は、賞与及び嘱託職員一時金の性質及び支給の目的を何ら検討していない。」

また、原審は、Y社がX1の所属する労働組合等との間で行っていた労使交渉の結果に着目するにとどまり、その具体的な経緯を勘案していない。
賞与及び嘱託職員一時金の性質や支給の目的を踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、「その一部が労契法20条にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断には、同条の解釈適用を誤った違法がある。」

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