裁判例

6.解雇

6-1 「解雇」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性

基本的な方向性

(1) 判例では、使用者の解雇権の行使は、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になるとしています(解雇権濫用法理)。【参考裁判例:(1)
(2) 解雇事由については、「客観的に合理的な理由」の主張立証は、就業規則に定める解雇事由該当性が中心的な争点となります。そして解雇事由該当性ありとされる場合においても、なお解雇の相当性が検討されます。
(3) 普通解雇の「客観的に合理的な理由」については、概ね次のように分類することができます。
  1. ①労働者の労務提供の不能による解雇【参考裁判例:(2)
  2. ②能力不足、成績不良、勤務態度不良、適格性欠如による解雇【参考裁判例:(3)
  3. ③職場規律違反、職務懈怠による解雇【参考裁判例:(4)
  4. ④経営上の必要性による解雇【参考裁判例:(5)
  5. ⑤ユニオンショップ協定による解雇【参考裁判例:(6)

(1)日本食塩製造事件(S50.04.25最二小判)

【事案の概要】
会社から労働組合から離籍(除名)処分を受けたことによりユニオンショップ協定に基づいて解雇された従業員が、当該除名処分が無効であるなどとして雇用関係の存在確認と賃金支払を請求した事例。(破棄差戻)
【判示の骨子】
労働組合から除名された従業員に対しユニオン・ショップ協定に基づく労働組合に対する義務の履行として会社が行う解雇は、ユニオン・ショップ協定によって会社に解雇義務が発生している場合にかぎり、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当なものとして是認することができるのであり、当該除名が無効な場合には、会社に解雇義務が生じないから、かかる場合には、客観的に合理的な理由を欠き社会的に相当なものとして是認することはできず、他に解雇の合理性を裏づける特段の事由がないかぎり、解雇権の濫用として無効であるといわなければならない。

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(2)東京電力事件(H10.09.22東京地判)

【事案の概要】
(1) Y社に勤務する慢性腎不全による身体障害等級一級の嘱託社員Xが、平成五年の生体腎移植手術後も、体調が悪く入退院を繰り返し、平成八年四月六日に退院後もほとんど出社せず、同年五月以降の出社日数は、毎月数日で、八月からは全く出社しない状況になった。Yは、Xに対し、同年一〇月二〇日までは、賃金を支給したが、被告は、同年一〇月二〇日に、今後勤務しない分については賃金を支給しない通常の扱いとすることとした。
(2) しかし、Xは、その後もほとんど出社しなかったため、Yは、同年一二月一九日付けで、このままの欠勤状況が続くと平成九年四月一日以降の嘱託雇用契約の継続は困難となる旨の書簡を郵送し、その後、就業規則に定める解雇規定の「心身虚弱のため業務に耐えられない場合」に該当するとして平成九年三月三一日付けで予告解雇をしたことにつき、不当解雇であるとして、Xの定年年齢までの期間の生活保障などを求めた事例。(労働者敗訴)
【判示の骨子】
以上認定の事実からすれば、Xは、Yの就業規則取扱規程に定める心身虚弱のため業務に耐えられない場合に該当すると認められ、本件解雇には、相当な解雇理由が存在し、かつその手段も不相当なものでなく、解雇権の濫用には当たらないといえる。

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(3)セガ・エンタープライゼス事件(H11.10.15東京地決)

【事案の概要】
Y社に平成二年に大学院卒の正社員として採用された従業員Xが、労働能率が劣り、向上の見込みがない、積極性がない、自己中心的で協調性がない等として解雇されたことに対して、解雇を無効として地位保全・賃金仮払いの仮処分を申し立てた事例。(労働者勝)
【判示の骨子】
(1) Xが、Yの従業員として、平均的な水準に達していなかったからといって、直ちに本件解雇が有効となるわけではない。
(2) 就業規則一九条一項各号に規定する解雇事由をみると、「精神又は身体の障害により業務に堪えないとき」、「会社の経営上やむを得ない事由があるとき」など極めて限定的な場合に限られており、平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり、著しく労働能率が劣り、しかも向上の見込みがないときでなければならないというべきである。
(3) Xについて、検討するに、確かにすでに認定したとおり、平均的な水準に達しているとはいえないし、Yの従業員の中で下位一〇パーセント未満の考課順位ではある。しかし、人事考課は、相対評価であって、絶対評価ではないことからすると、そのことから直ちに労働能率が著しく劣り、向上の見込みがないとまでいうことはできない。
(4) Yとしては、Xに対し、さらに体系的な教育、指導を実施することによって、その労働能率の向上を図る余地もあるというべきであり(実際には、債権者の試験結果が平均点前後であった技術教育を除いては、このような教育、指導が行われた形跡はない。)、いまだ「労働能率が劣り、向上の見込みがない」ときに該当するとはいえない。

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(4)トラストシステム事件(H19.06.22東京地判)

【事案の概要】
情報処理業界向けのサービス業を営む会社YのシステムエンジニアXが、派遣先で繰り返し行った長時間にわたる電子メールの私的使用や、私的な要員派遣業務のあっせん行為が、服務規律、職務専念義務に違反していたとして解雇されたのは解雇権の濫用であるとして、地位保全と未払賃金の支払等を請求した事例。(労働者勝訴)
【判示の骨子】
Xの私用メールなどについては、Xの義務に違反するところがあるといわざるを得ないが、これを解雇理由として過大に評価することはできず、また、要員の私的あっせん行為についても、そのような事実が窺われるとする余地はあるものの、これを認めるに足りず、このようなYが主張する服務規律違反、職務専念義務違反については、解雇を可能ならしめるほどに重大なものとまでいうことはできない。また、Yの指摘するXの能力不足についても、上記のとおり、解雇を理由づけるほどまでに能力を欠いているとは認め難い。そして、これらの事情を総合すると、Xの勤務態度、能力につき全く問題がないとはいえないものの、これをもってしても、いまだXを解雇するについて正当な理由があるとまでいうことはできず、本件解雇は、解雇権の濫用として、その効力を生じないものといわざるを得ない。

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(5)東洋酸素事件(S54.10.29東京高判)

【事案の概要】
特定の製造部門全面閉鎖に伴う整理解雇につき、就業規則の定める「やむをえない事業の都合によるとき」には当たらないとして従業員の地位の保全等を認めた原判決について、会社がこの取消を求め控訴した事例。(使用者勝訴)
【判示の骨子】
特定の事業部門の閉鎖に伴い当該事業部門に勤務する従業員を解雇するについて、それが「やむを得ない事業の都合」によるものと言い得るためには、第一に、当該事業部門を閉鎖することが企業の合理的運営上やむをえない必要に基づくものと認められる場合であること、第二に、当該事業部門に勤務する従業員を同一又は遠隔でない他の事業場における他の事業部門の同一又は類似職種に充当する余地がない場合、あるいは配置転換を行ってもなお全企業的に見て剰員の発生が避けられない場合であって、解雇が特定事業部門の閉鎖を理由に会社の恣意によってなされるものでないこと、第三に、具体的な解雇対象者の選定が客観的、合理的な基準に基づくものであること、以上の三個の要件を充足することを要し、特段の事情のない限り、それをもって足りるものと解するのが相当である。

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(6)三井倉庫港運事件(H01.12.14最一小判)

【事案の概要】
Y社は、A労働組合との間にY社に所属する海上コンテナトレーラー運転手で、A組合に加入しない者及びA組合を除名された者を解雇する旨のユニオン・ショップ協定を締結していたところ、Y社に勤務する海上コンテナトレーラー運転手Xらが、昭和五八年二月二一日午前八時半ころ、A組合に対して脱退届を提出して脱退し、即刻訴外B労働組合に加入し、その旨を同日午前九時一〇分ころY社に通告した。A組合は、同日、Y社に対しユニオン・ショップ協定に基づく解雇を要求し、Y社は、同日午後六時ころ本件ユニオン・ショップ協定に基づきXらを解雇した。このため、Xら前記ユニオン・ショップ協定に基づく解雇は無効であるとしてその効力を争った事例。(労働者勝訴)
【判示の骨子】
(1) ユニオン・ショップ協定によって、労働者に対し、解雇の威嚇の下に特定の労働組合への加入を強制することは、それが労働者の組合選択の自由及び他の労働組合の団結権を侵害する場合には許されないものというべきである。
(2) したがって、ユニオン・ショップ協定のうち、締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名されたが、他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は、右の観点からして、民法九〇条の規定により、これを無効と解すべきである(憲法二八条参照)。
(3) そうすると、会社が、ユニオン・ショップ協定に基づき、このような従業員に対してした解雇は、同協定に基づく解雇義務が生じていないのにされたものであるから、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することはできず、他に解雇の合理性を裏付ける特段の事由がない限り、解雇権の濫用として無効であるといわざるを得ない。
(4) Yが、ユニオン・ショップ協定に基づき、Xらに対してした本件各解雇は、同協定によるYの解雇義務が生じていないときにされたものであり、本件において他にその合理性を裏付ける特段の事由を認めることはできないから、結局、本件各解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することはできず、解雇権の濫用として無効であるといわなければならない。

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