裁判例

2.配置

2-1 「出向」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性

基本的な方向性

(1) 就業規則にも労働協約にも出向規定が定められ、社外勤務の定義、出向期間、出向中の社員の地位、賃金、退職金などその処遇等に関して出向者の利益に配慮した詳細な規定が設けられている場合には、会社は従業員に、個別的に同意を得ることなく、在籍出向を命じることができます。
(2) 在籍出向させることに合理性・必要性があり、出向者の人選基準にも合理性があり、具体的な人選もその不当性をうかがわせるような事情がなく、出向によっても業務内容や勤務場所には何らの変更もなく、その生活関係、労働条件等において著しい不利益を受けるものとはいえず、発令手続に不相当な点があるともいえないものの場合には、権利の濫用とはいえません。

新日本製鐵事件 (H15.04.18最二小判)

【事案の概要】
(1) 業界の構造不況下で経営を合理化するため、Y社は、その従業員Xら2名が従事していた業務をC社に委託するとともに、当該業務を円滑に遂行するために、XらをC社に在籍のまま出向させたが、その後も経営環境が改善されなかったことから、3年間の出向期間を3回延長したところ、Xらが出向命令無効確認を求めて提訴したもの。
(2) 福岡地裁・高裁ともに、本件出向命令には必要性・合理性があったとし、最高裁もこれを維持し、上告を棄却したもの。
【判示の骨子】
(1) 就業規則にもXらに適用される労働協約にも出向に関して詳細に規定されている下にあっては、Y社はXらにその同意を得ることなく在籍出向を命じることができる。
(2) Y社との労働契約関係は形骸化しているとはいえず、出向期間が長期化しているからといって、個別的な同意が必要な転籍出向と同視できない。
(3) C社に業務を委託するという経営判断には合理性があり、当該業務に従事していたXらを出向させる必要があり、出向させる要員の人選基準には合理性があり、具体的な人選にも不当性はなかった。
(4) 出向によってXらの業務内容や勤務場所には何ら変更ない上、出向中の社員の処遇等が著しい不利益を受けるものとはいえず、発令手続に不相当な点がないという事情からすれば、本件各出向命令は権利の濫用に当たらない。

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ゴールド・マリタイム事件 (H02.07.26大阪高判)

【事案の概要】
(1) 懲戒解雇が、裁判上、無効とされたことから復職することとなったのに、配置すべきポストがないとして、新たに制定した出向規定に基づき命じられた下請会社での就労を拒否し、年休を取得し出勤しなかったところ、諭旨解雇されたY社の管理職Xが、その解雇の効力を争ったもの。
(2) 大阪地裁は、出向規定には合理性がないとして、諭旨解雇も無効としたが、大阪高裁は、出向規定に従う義務があるが、業務上の必要性・人選上の合理性がないとして、出向命令には効力はなく諭旨解雇は無効とし、最高裁もこれを支持したもの。
【判示の骨子】
(1) 新たな出向規定が不利益変更にあたるとしても、その内容や制定手続き、経営をめぐる諸般の事情を総合すれば、出向に関する各規定はいずれも有効なものであり、趣旨に即して合理的に運用される限り、個々の諾がなくて、出向義務が生じる。
(2) 本件出向命令には業務上の必要性、人選の合理性ともになく、権利の濫用にあたり、諭旨解雇は無効とした。

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日本ステンレス・日ス梱包事件 (S61.10.31新潟地高田支判)

【事案の概要】
(1) ⅰ)Y社の子会社Aへの期限を定めない出向命令を拒否し懲戒解雇されたX1、X2、X3と、同子会社B社への在籍出向を解かれて復帰した上でC工場への配置転換命令を拒否して懲戒解雇されたX4が、これらの出向・配置転換命令は、その組合活動を嫌悪したもの、転居を伴う出向・配置転換には本人の同意を得ていた慣行に反する、出向・配置転換に応じ難い事情があるなどとして、その取消しを求めたものであり、ⅱ)在籍出向を解かれて復帰した上でC工場への配置転換を命じられたX5が、その命令は解雇に当たるとして取り消しを求めたもの。
【判示の骨子】
(1) 就業規則第4条の出向・配置転換規定に基づき、個別的な同意を得ることなく、出向・配置転換を命じることができる。
(2) Y社とA社は実質的に同一の会社であり、Y社からA社への出向は、配置転換の場合と特段の差異は生ぜず、個別的な同意は必要ない。
(3) X1の両親を介護しなければならない家庭の事情を考慮すると転居を伴う出向は酷に失するとともに、「家庭の事情」を考慮するとの人選方針にも反するものであり、人事権を濫用したものとして無効である。

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