配置転換

具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性

■基本的な方向性

  1. 就業規則に、業務上の都合により転勤や配置転換を命じることができる旨が定められており、実際にこれに基づき転勤が頻繁に行われ、雇用契約で勤務地や職種が限定されていない場合には、企業は個々の労働者の同意なしに転勤や配置転換を命じることできます。
  2. 転勤や配置転換命令について、業務上の必要性がない場合、不当な動機・目的が認められる場合、労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合等特段の事情がある場合には、その転勤や配置転換命令は権利の濫用に当たると考えられます。
  3. 職種限定合意のある職種が廃止される場合に解雇を回避するためだとしても、企業は労働者の個別的同意なしに合意に反する他職種への配置転換を命ずることはできません。

東亜ペイント事件(S61.07.14最二小判)

【事案の概要】
  1. 頻繁に転勤を伴うY社の営業担当者に新規大卒で採用され、約8年間、大阪近辺で勤務していたXが、神戸営業所から広島営業所への転勤の内示を家庭の事情を理由に拒否し、続いて名古屋営業所への転勤の内示にも応じなかったことから、Y社は就業規則所定の懲戒事由に該当するとしてXを懲戒解雇したところ、Xは転勤命令と懲戒解雇の無効を主張して提訴したもの。
  2. 最高裁は、転勤命令は権利の濫用であり、Y社が行った転勤命令と、それに従わなかったことによる懲戒解雇は無効であるとした大阪地裁・高裁の判決を破棄し、差し戻した。
【判示の骨子】
  1. 入社時に勤務地を限定する旨の合意もなく、労働協約と就業規則に転勤を命じることができる旨の定めがあり、転勤が実際に頻繁に行われていたという事情の下では、会社は、労働者の個別的な同意を得ることなくその勤務場所を決定できる。
  2. しかし、特に転居を伴う転勤は、労働者の生活に影響を与えることから無制約に命じることができるものではなく、これを濫用することは許されない。
  3. そして、転勤命令について、業務上の必要性がない場合、その必要性があっても他の不当な動機・目的をもってなされた場合、労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合等、特段の事情がない場合には、当該転勤命令は権利の濫用に当たらない。
  4. なお、業務上の必要性とは、その異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することなく、企業の合理的運営に寄与する点が認められる場合を含む。
  5. 本件転勤命令には業務上の必要性が優に存在し、Xに与える不利益も通常甘受すべき程度であり、権利を濫用したとはいえない。
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ネスレ日本事件(H18.04.14大阪高判)

【事案の概要】
  1. Y社姫路工場の一部門を茨城県霞ヶ浦工場へ移転するに伴い配置転換を命じられた60名のうちXら2名が、その配置転換命令は無効であり、配置転換先で勤務する義務がないことと配置転換命令後の賃金の支払いを求めて提訴したもの。
  2. 神戸地裁姫路支部は、業務上の必要性に基づいてなされたにせよ、Xらに通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせ、配置転換命令権の濫用に当たるとし、大阪高裁も控訴を棄却した。
【判示の骨子】
  1. 勤務場所を限定していない契約の場合には、使用者は業務上の必要に応じその裁量により配置転換を命じる権利があり、その命令に企業の合理的な運営に寄与する点がある限り、業務上の必要性が肯定される。
  2. 配置転換命令当時の原告らの家族介護の状況などを考慮すれば、原告らが転勤によって受ける不利益は非常に大きいものであった。
  3. 本件配置転換命令は、通常甘受すべき程度を著しく越える不利益を負わせるもので、配置転換命令権の濫用にあたり、無効である。
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滋賀県社会福祉協議会事件(R06.04.26最二小判)

【事案の概要】
  1. X(原告、控訴人=被控訴人、上告人)は、社会福祉法人であるY(被告、被控訴人=控訴人、被上告人)との労働契約に基づき、Yの福祉用具センターにおいて、福祉用具の改造・製作、技術の開発を担当する技術職として勤務していた。Xは同センターの技術職として18年間勤務し、同センターにおいて溶接ができる唯一の技術者であった。
  2. Yは、同センターにおける福祉用具改造・製作業務の廃止する方針を決定し、Xに対し、総務課の施設管理担当への配転命令をした。Xは、本件配転命令がXとYとの間の職種限定合意に反する等と主張して、Yに対し、債務不履行または不法行為に基づく損害賠償等を求めて、本件訴えを提起した。
  3. 第1審(R04.04.27京都地判 2022WLJPCA04276015)および原審(R04.11.24大阪高判 2022WLJPCA11246013)は、①XとYとの間には、Xを福祉用具の改造・製作、技術の開発を担当する技術職として就労させるとの黙示の職種限定合意があったと認められるが、②福祉用具の改造・製作業務の廃止によりXを解雇するという事態を回避するために他業務に配転を命じることにも業務上の必要性があり、甘受すべき程度を超える不利益をXにもたらすとまでは認められないこと等から、本件配転命令をもって権利濫用ということはできないとして、Xの当該請求部分を棄却した。これに対し、Xが上告受理申立てをした。
【判示の骨子】原判決破棄差戻し。

「労働者と使用者との間に当該労働者の職種や業務内容を特定のものに限定する旨の合意がある場合には、使用者は、当該労働者に対し、その個別的同意なしに当該合意に反する配置転換を命ずる権限を有しないと解される。〔…〕XとYとの間には、Xの職種及び業務内容を本件業務に係る技術職に限定する旨の本件合意があったというのであるから、Yは、Xに対し、その同意を得ることなく総務課施設管理担当への配置転換を命ずる権限をそもそも有していなかったものというほかない。」

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