裁判例

14.会社物品の私的使用

14-1 「会社物品の私的使用」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性

基本的な方向性

(1) 就業規則に特段の定めがない限り、職務遂行の支障とならず、使用者に過度の経済的負担をかけないなど社会通念上相当と認められる限度であれば、業務用のパソコン等で私用メールを送受信しても職務専念義務に違反するとまではいえないとした事例があります。
(2) 一方、勤務時間中に長期にわたり膨大な数の私用メールを送受信し続けることが許されないことは明らかであり、パソコン使用規程を設けていたか否かでその背信性の程度が異なるものではないとした事例があります。 

グレイワールドワイド事件 (H15.09.22東京地判)

【事案の概要】
(1) 広告会社Y社は、採用後22年間にわたり、秘書業務、英文による情報提供業務、翻訳業務等に従事していたXが、業務用パソコンから私用メールを送受信したなど計9項目の言動を捉えて、無期限の出勤停止を命じ、概ね3か月後に解雇を通告したところ、Xが、就業規則上の解雇事由に当たらず、解雇権の濫用にあたり無効であるとして、地位の確認と賃金・賞与等の支払いを求めて提訴したもの。
(2) 東京地裁は、就業規則所定の解雇事由に該当する行為もあるが、約22年間の非違行為もなく良好な勤務実績を考慮すると、解雇が客観的合理性・社会的相当性を備えているとは評価し難いとして、解雇権の濫用に当たるとした。

【判示の骨子】
(1) 就業規則に特段の定めがない限り、職務遂行の支障とならず、使用者に過度の経済的負担をかけないなど社会通念上相当と認められる限度で会社のパソコン等を利用して私用メールを送受信しても職務専念義務に違反するとはいえない。しかし、私用メールで上司を批判するなど、会社の対外的信用を害しかねない批判を繰り返すことは、誠実義務の観点から不適切であり、解雇事由に該当する。
(2) 上司への誹謗中傷等解雇事由に該当する行為はあるが、約22年間にわたり非違行為もなく、良好な勤務実績を挙げて会社に貢献してきたことを考慮すると、本件解雇は客観的合理性及び社会的相当性を欠き、解雇権の濫用に当たり無効である。

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K工業技術専門学校(私用メール)事件 (H17.09.14福岡高判)

【事案の概要】
(1) 専門学校等を経営するY法人が、勤務時間内に職場のパソコンを利用して出会い系サイトに登録し大量の私用メールを送受信したことを理由として教師Xを懲戒解雇したところ、Xは、懲戒事由に該当する事実はなく解雇権を濫用したなどとして、地位の確認、未払賃金等の支払いを求めて提訴したもの。
(2) 福岡地裁久留米支部は、懲戒解雇事由に一応は該当するものの、その内容や程度、影響等からすると解雇権の濫用に当たるとしたが、福岡高裁は、Xの行為は、著しく軽率かつ不謹慎であり、学校の品位や名誉を傷つけるものであること、職務専念義務に違反することなどから、懲戒解雇は適法であるとした。

【判示の骨子】
(1) Xの私用メールは、膨大な件数に達し、その約半数が勤務時間内に行われているなど、職責専念義務等に著しく反し、その程度も相当に重い。
(2) Xの行為は、著しく軽率かつ不謹慎であり、学校の品位、体面及び名誉信用を傷つけるものである。
(3) 勤務時間中、学校のパソコンを用いて私用メールを長期間、かつ膨大な回数にわたって続けることが許容されないことは自明のことであって、パソコン使用規程を設けていたか否かで背信性の程度が異なるものでもない。
(4) 非違行為の程度及び教育者であったことからすれば、懲戒解雇が苛酷なものとはいえない。

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