第17章 柔軟性を味方に、正しく自由に働くべし!

概説

「働き方改革」は、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。
2018年に制定された働き方改革関連法による労基法改正では、多様で柔軟な働き方の実現という観点から、フレックスタイム制の見直し(労基法第32条の3)、高度プロフェッショナル制度の創設(同法第41条の2)が行われ2019年4月に施行されました。
また、2023年には、同様の観点から、裁量労働制(専門業務型裁量労働制・企画業務型裁量労働制)について規則改正等が行われ2024年4月より施行されています。 このような多様で柔軟な働き方は、働く人の多様なニーズに応えるもので、生産性向上、ワークライフバランス、モチベーション向上に繋がります。
ただ、従来の働き方を変えるものであることから、制度の導入に当たって、必要なルールを確認することも必要です。企業も働く方もこのルールをまもって、多様で柔軟な働き方を目指していきましょう。

◆NG1 解説

仕事がまわっていかないなら、自分で決めた退社時間で帰る社員を引き留めて、働いてもらえばいいだろう。
フレックスタイム制は、一定の期間の総労働時間を定めておき、労働者がその範囲内で日々の始業、終業の時刻を自らの意思で決めて働く制度です。始業、終業の時刻を労働者の決定に委ねることが要件ですから、労働者が決めた退社時間に退社させないで引き留める業務命令はできません。

フレックスタイム制では、始業及び終業の時刻については、就業規則その他これに準ずるものにおいて始業及び終業の時刻を労働者の決定に委ねる旨明確に定めなければならないとされています。フレックスタイム制は労働者の自由な時間管理が保障されることを前提として確日、各週の労働時間をあらかじめ特定することを要件としないで、労基法第32条の日または週の法定労働時間を超えて労働をさせることを認めるものです。したがって、始業及び終業の時刻について労働者の自主的決定が担保されていることが重要ですので、就業規則その他これに準ずるものにこの点を明確にすることとされたものです。これによって労働者が始業及び終業の時刻を自主的に決定できる労働契約上の権利を持つこと、言いかえれば、使用者が各日の始業及び終業の時刻や労働時間を指定するような業務命令をすることができないことになります。

◆NG2 解説

フレックスタイム制を導入するときに労使協定を締結しなくていいだろう。
フレックスタイムの要件として、労基法32条の3第1項で、「当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により」その労働者に係る始業及び終業の時刻をその労働者の決定に委ねることとされていますので、フレックスタイム制を導入する場合は、就業規則の改定とともに労使協定の締結も必要です。
(参考)
労基法32条の3第1項
使用者は、就業規則その他これに準ずるものにより、その労働者に係る始業及び終業の時刻をその労働者の決定に委ねることとした労働者については、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めたときは、その協定で第二号の清算期間として定められた期間を平均し一週間当たりの労働時間が第32条第1項の労働時間を超えない範囲内において、同条の規定にかかわらず、一週間において同項の労働時間又は一日において同条第2項の労働時間を超えて、労働させることができる。
一 この項の規定による労働時間により労働させることができることとされる労働者の範囲
二 清算期間(その期間を平均し一週間当たりの労働時間が第32条第1項の労働時間を超えない範囲内において労働させる期間をいい、3箇月以内の期間に限るものとする。以下この条及び次条において同じ。)
三 清算期間における総労働時間
四 その他厚生労働省令で定める事項

◆NG3 解説

割増賃金なんてまったく対象外ですね。
休日労働、深夜労働についての割増賃金は支払わなければなりません。

労基法第35条の休日労働に関する規定および労基法第37条の深夜時間帯の労働に関する規定は専門業務型裁量労働制によって労働時間を算定する場合にも適用され、対象労働者が休日および深夜労働をした場合には、みなし労働時間ではなく、実際に働いた時間に応じて割増賃金を支払わなければなりません。

◆NG4 解説

同意の撤回なんてできません。
同意の撤回は2023年の労基則改正でできるようになりました。

2023年の労基則改正(2024年4月1日施行)により、専門業務型裁量労働制についても労働者本人の同意を得ることが必要になり(改正労基則第24条の2の2第3項第1号)、また、その同意の撤回もできるようになりました(改正労基則第24条の2の2第3項第2号)。
なお、労働者が同意の撤回をした場合に、同意の撤回を理由として処遇及び配置について不利益な取扱いをすることはできません。