裁判例

4.年次有給休暇

4-1 「年次有給休暇」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性

基本的な方向性

(1) 年次有給休暇の成立要件である出勤率について、無効な解雇の場合のように労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日は、出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含めて算定します。
(2) 年次有給休暇を取得したことにより皆勤手当を減額することなどは、その趣旨、目的、それにより失う経済的利益の程度、年次有給休暇の取得に対する事実上の抑止力の強弱等諸般の事情を総合して、年次有給休暇の取得を抑制し、それにより労基法が労働者に年次有給休暇取得の権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものでない限り、無効とはいえないとされています。

八千代交通事件(H25.06.06最一小判)

【事案の概要】
(1) 解雇により2年余りにわたり就労を拒まれたY社の社員Xは、解雇無効の判決が確定して職場復帰した後に、合計5日間の労働日につき年次有給休暇の請求をして就労しなかったところ、Y社は、年次有給休暇の成立要件を満たさないとして、5日分の賃金を支払わなかった。このためXは、年次有給休暇権を有することの確認、控除した賃金・遅延損害金の支払と不法行為による損害賠償を求めて提訴したもの。
(2) 本件では,Xが請求の前年度において年次有給休暇権の成立要件(雇入れの日から6か月の継続勤務期間又はその後の1年ごとにおいて全労働日の8割以上出勤したこと)を満たしているか否かが争われた。さいたま地裁は、使用者の責に帰すべき事由により就業できなかった期間は、「全労働日」に算入し、出勤した日として扱うのが相当として、Xの主張を認容した。東京高裁はY社の控訴を棄却し、最高裁もこれを維持して上告を棄却した。

【判示の骨子】
無効な解雇の場合のように労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日は、年次有給休暇の成立要件における出勤率の算定に当たっては、出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものというべきである。

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沼津交通事件(H05.06.25最二小判)

【事案の概要】
(1) タクシー会社Y社は、労働組合との労働協約において、勤務予定表どおりに勤務した場合には1か月3,100円ないし4,100円の皆勤手当を支給するが、年次有給休暇を取得した場合には皆勤手当の全部又は一部を支給しないこととなった。年休を取得したことによって皆勤手当が減額された運転手Xは、こうした取扱いは労基法に反するなどとして、減額あるいは支給されなかった皆勤手当と遅延損害金の支払いを求めて提訴したもの。
(2) 静岡地裁は、有給休暇を取得した日を欠勤扱いすることは取得を抑制し、公序に反するとしてXの請求を認容したが、静岡高裁は、皆勤手当の減額・不支給が有給休暇の取得を事実上制約する抑制的効果を持っていたとまでは認めらないこと等から、直ちに公序良俗に反して無効であるとすることはできないとし、最高裁もこれを支持した。

【判示の骨子】
(1) (現)労基法136条自体は、使用者の努力義務を定めたものであつて、労働者の年次有給休暇の取得を理由とする不利益取扱いの私法上の効果を否定するまでの効力を有するものではない。
(2) 年次有給休暇取得による不利益措置は、労基法39条の精神に沿わない面を有することは否定できないが、その趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度、年次有給休暇の取得に対する事実上の抑止力の強弱等諸般の事情を総合して、年次有給休暇を取得する権利の行使を抑制し、ひいては同法が労働者に右権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められるものでない限り、公序に反して無効となるとすることはできない。
(3) Y社の右措置は、年次有給休暇の取得を一般的に抑制する趣旨に出たものではなく、また、控除される皆勤手当の額が相対的に大きいものではないことなどから、年次有給休暇の取得を事実上抑止する力は大きなものではなかったというべきであり、公序に反する無効なものとまではいえない。

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