裁判例

9.仕事上のミスを理由とする損害賠償

9-1 「仕事上のミスを理由とする損害賠償」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性

基本的な方向性

(1) 労働者が仕事上のミス等により使用者に損害を与えた場合、労働者が当然に損害賠償責任を負うものではありません。労働者のミスはもともと企業経営の運営自体に付随、内在するものであり、使用者がそのリスクを負うべきものと考えられます。
(2) しかし、事業の性格、規模、施設の状況、労働者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様・予防・損害の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度で、労働者が損害賠償の責任を負うことがあります。

エーディーディー事件 (H24.07.27大阪高判)

【事案の概要】
(1) コンピュータシステムの企画・設計・開発・販売等を業とするY社は、大口顧客の注文が減少したのは創立当初からの従業員であるXが業務を適切に実施しなかったこと等が原因であるとして、退職したXに債務不履行による損害を賠償するよう請求したもの。
(2) 京都地裁、大阪高裁ともY社の請求を棄却した。

【判示の骨子】
労働契約上の義務違反によって使用者に損害を与えた場合、労働者が当然に債務不履行による損害賠償責任を負うものではない。すなわち、労働者のミスはもともと企業経営の運営自体に付随、内在化するものであるし、使用者が決定する業務命令の履行に際し発生するであろうミスは、業務命令自体に内在するものとして使用者がリスクを負うべきものであることなどからすると、その事業の性格、規模、施設の状況、労働者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様・予防・損害の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度で、労働者に損害の賠償を請求できる。
しかし、Y社が主張するような損害は、結局は取引関係にある企業同士で通常に有り得るトラブルなのであって、それを労働者個人に負担させることは相当ではなく、Yの損害賠償請求は認められない。
また、Y社は、Xに故意又は重過失がある旨主張するが、本件において、Xが故意又は重過失によりY社に損害を与えたと認めることはできない。

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茨城石炭商事事件 (S51.07.08最一小判)

【事案の概要】
(1) タンクローリー・小型貨物自動車等により石炭・石油等を輸送するのを業とするY社は、小型貨物自動車の運転に主に従事していたXが、欠勤した運転手の代行としてタンクローリーを運転中、急停車した先行のローリー車輌に追突したことによって生じた損害40万円(相手・自社車両の修繕費、休業補償など)をXに賠償するよう求めて提訴したもの。
(2) 水戸地裁は、事故の態様、過失の程度、乗務の経緯、給与等諸般の事情、特に、経費節減のため対人賠償責任保険には加入していたが、対物保険や車両保険には加入していなかったことなどを総合勘案すると、Y社のXに対する求償権の行使は、四分の一を超えると信義則に反し権利の濫用として許されないとし、東京高裁、最高裁もこれを支持した。

【判示の骨子】
(1) 使用者が、被用者の行為により、直接損害を被った又は使用者としての損害賠償責任を負担したことにより損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に右損害の賠償を請求又は求償できるものと解すべきである。
(2) Y社は、①経費節減のため、対人賠償責任保険には加入していたが、対物保険・車両保険には加入していなかつた、②Xは、主として小型貨物自動車の運転手であり、事故当時は特命により臨時的に運転していたもの、③Xの給与は、月額約45,000円であり、勤務成績は普通以上であつた、ことからすれば、Yが被った損害のうち、Xに賠償を求め、求償できるのは1/4が限度である。

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