裁判例

3.処遇

3-4 「試用期間」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性

基本的な方向性

(1) 入社当初に結んだ労働契約に期間を設けた場合、その期間を設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、当該期間満了によりその契約が当然に終了する旨を当事者が合意しているなど特段の事情がないときには、当該期間は、解約権が留保された試用期間と解されます。
(2) 試用期間である以上、解約権の行使は通常の場合よりも広い範囲で認められますが、試用期間の趣旨・目的に照らし、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当とされる場合にのみ許されます。
(3) 試用期間中の労働者は不安定な地位に置かれることから、その適性を判断するのに必要な合理的な期間を越えた長期の試用期間は、公序良俗に反し、その限りにおいて無効と解されます。

神戸弘稜学園事件 (H02.06.05最三小判)

【事案の概要】
(1) 開校2年目の私立高校の常勤講師として採用されたXが、契約期間は1年であったとして期間満了により雇用契約が終了したとされたことから、地位確認を求めたもの。
(2) 最高裁は、1年の期間満了により雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意があったとすることには疑問があるとして、期間1年が満了したことにより契約は終了したとする大阪高裁の判決を破棄し、差し戻した。
【判示の骨子】
(1) 新規採用者との雇用契約に期間を設けた場合に、その趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためであるときは、当該期間の満了によりその雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意があるなど特段の事情がある場合を除き、その期間は試用期間と解される。
(2) 試用期間付雇用契約の法的性質については、試用期間中の労働者がそうでない労働者と同じ職場で同じ職務に従事し、使用者の取扱いにも変わるところがなく、また、試用期間満了時に本採用に関する契約書作成の手続が採られていないような場合には、他に特段の事情がない限り、当該契約は解約権留保付雇用契約と解される。
(3) 解雇権留保付雇用契約における解雇権の行使は、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認される場合に許されるものであり、通常の雇用契約における解雇の場合よりもより広い範囲の解雇の自由が認められるものの、試用期間付雇用契約が試用期間の満了により終了するのは、本採用の拒否すなわち留保された解約権の行使が許される場合でなければならない。
(4) 1年の期間の満了により本件雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意があったとするには相当の疑問が残るのに、期間1年の満了により、雇用契約は終了したとする原判決には審理不尽、理由不備がある。

判例(抄録)等を見る

「公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会」ウェブサイトへ

ブラザー工業事件 (S59.3.23名古屋地判)

【事案の概要】
(1) 中途採用の「見習」社員から登用試験を経て「試用」社員に登用されたが、その後3回の「社員」登用試験に合格しなかったことから、就業規則に基づき解雇されたXが、当該解雇は無効であるとして地位保全等を求めて仮処分を申請したもの。
(2) 名古屋地裁は、現業職員の業務適性は見習社員期間(短い者で6~9か月、長い者で15か月)中に判断できるから、試用社員に登用した者に更に12~15か月の試用期間を設ける合理的な必要性はないとして、当該解雇を無効とするなど申立ての一部を認容した。
【判示の骨子】
(1) 本件会社における中途採用者はすべてまず見習社員として採用され、登用試験を経て試用社員、社員へと順次登用されることや、試用社員及び社員への登用率の高さ等を総合考慮すると、経済情勢の変化に応じて人員を調整するための臨時工としての性格を有しない。本件会社の見習社員契約は、本採用の前提として使用者が労働者の労働能力や勤務態度等について価値判断をするための試用契約に該当する。
(2) 試用期間中の労働者は不安定な地位に置かれるものであるから、労働能力や勤務態度等業務への適性を判断するのに必要な合理的な期間を超える試用期間は公序良俗に反し、その限りにおいて無効となる。
(3) 少なくとも現業従業員の場合、見習社員である期間(最短の者で6~9か月、最長の者12~15か月)中に、その適性を判断できるのであり、見習社員から試用社員に登用した者に更に6~12か月の試用期間を設け、試用社員登用の際の選考基準とほぼ同様の基準で社員登用を選考する合理的な必要性はない。

判例(抄録)等を見る

「公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会」ウェブサイトへ
労働基準関係判例検索はこちら
「公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会」ウェブサイトへ

一覧ページへ戻る
  • 独立行政法人 労働政策研究・研修機構
  • 厚生労働省法令等データベースサービス
  • e-Gov