裁判例

3.処遇

3-2 「就業規則の効力」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性

基本的な方向性

(1) 就業規則は、事業場内での社会的規範、法的規範であることから、その内容を現実に知っているか、個別的に同意しているか否かにかかわらず、その適用を受けます。
(2) 作成・変更された就業規則の条項の内容が合理的なものであるかぎり、個々の労働者が同意していないとして、適用を拒否できません。
(3) 労働者は労働契約によって企業秩序遵守義務を負うことから、使用者は当該義務に違反した労働者を懲戒する権限を有しています。
(4) 使用者が懲戒するには、就業規則で予め懲戒の種別・事由を定め、これを労働者に周知しておかなければなりません。

秋北バス事件 (S43.12.25最大判)

【事案の概要】
(1) 主任以上の職にある者に新たに55歳停年制(一般従業員は50歳)を設ける就業規則の変更によって解雇された従業員Xが、本人の同意のない就業規則の変更には拘束されないから、その解雇は無効であるとして雇用関係の存在確認を求めたもの。
(2) 最高裁は、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労働者が同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないとして、申立てを棄却した。
【判示の骨子】
(1) 就業規則は、当該事業場内での社会的規範にとどまらず、法的規範としての性質を認められているから、就業規則の存在や内容を現実に知っているか否かにかかわらず、また、個別的に同意したかどうかを問わず、当然に、その適用を受ける。
(2) 就業規則の作成・変更によって、既得の権利を奪い、不利益な労働条件を一方的に課すことは、原則として許されないが、労働条件の統一的・画一的な決定を建前とする就業規則の性質からして、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労働者が同意していないことを理由として、その適用を拒否することは許されない(これに対する不服は、団体交渉等の正当な手続による改善にまつほかはない)。
(3) 停年制は、一般的に不合理な制度ではなく、新たに設けられた55歳という停年は、わが国産業界の実情や会社の一般職種の労働者の停年が50歳であることと比べても低いとはいえない。
(4) 本件条項は、「停年退職」制を定めたものではなく、停年に達したことを理由として解雇するいわゆる「停年解雇」制を定めたものであるが、再雇用の特則によって、苛酷な結果を緩和する途が開かれており、Xにも停年解雇後引き続き嘱託として採用する旨の意思が表示されている。
(5) Xも含む中堅幹部で組織する「輪心会」の会員の多くは、同条項は、後進に道を譲るためのやむを得ないものとして、これを認めている。
(6) 以上のことからすれば、当該条項は決して不合理なものではなく、また、信義則違反・権利濫用があったとは認められず、Xは、当該条項の適用を拒否できない。

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フジ興産事件 (H15.10.10最二小判)

【事案の概要】
(1) 上司に反抗的な態度をとったなどとして、直前に施行された新就業規則の懲戒条項に基づき懲戒解雇されたXが、就業規則が所定の手続きを経て労基署に届け出られたのは、本件解雇の直前であり、周知もされていない就業規則に基づく解雇は違法であるとして、その決定に関与したY社の取締役Y1ら3名に損害賠償を請求したもの。
(2) 最高裁は、懲戒処分には就業規則上の根拠と適用される労働者に周知されていることが必要であるとし、この点を認定しないままの大阪高裁の判断は違法であるとして、破棄差戻した。
【判示の骨子】
(1) 使用者が労働者を懲戒するには、就業規則であらかじめ、懲戒の種別と事由を定めておくことを要する。
(2) 就業規則が法的規範としての拘束力を生ずるためには、その内容が適用される事業場の労働者への周知手続が採られていることを要する。
(3) この点について審理を尽くさずにした判断は違法であるとして、破棄差戻した事例。

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