裁判例

3.処遇

3-1 「募集条件と実際の労働条件が異なる場合」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性

基本的な方向性

(1) 求人の申し込みは応募の誘引に過ぎず、応募は契約の申込みであることから、求人広告等の内容がそのまま、労働契約の内容になるとはいえません。
(2) しかし、採用の際に、求人者と応募者間で、こうした求人広告等の内容を変更すると合意したと認められる特段の事情がない限り、求人広告の内容は労働契約の内容となります。

千代田工業事件 (S58.10.19大阪地決)

【事案の概要】
(1) 求人票記載の雇用形態は期間の定めのないものであったとして、期間満了による雇止めは無効として地位保全を申し立てたもの。
(2) 大阪地裁は、申立てを認容する決定をした。
【判示の骨子】
(1) 求人の申込みは、法律上、応募を誘っているにすぎず、求人広告に記載した労働条件が直ちに労働契約の内容になるとはいえない。
(2) しかし、採用時などに双方の合意でこうした労働条件を変更したと認められるような特段の事情がない限り、求人広告の内容が労働契約の内容となるものと解される。

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千代田工業事件(H02.03.08大阪高判)

【事案の概要】
(1) 求人票には期間の定めのない労働契約であったとして、期間満了による雇止めを無効として申し立てたもの。
(2) 裁判所は、当初は期間の定めのない雇用契約であったが、その後、期間の定めのあるものに変更することが合意されていたとして申立てを棄却した。
【判示の骨子】
(1) 求人票の真実性、重要性、公共性等からして、求職者は当然、求人票記載の労働条件が雇用契約の内容になるものと考えるし、通常、求人者も求人票に記載した労働条件が雇用契約の内容になることを前提としている。すると、求人票記載の労働条件は、当事者間でこれと異なる別段の合意をしたなど特段の事情がない限り、雇用契約の内容になるものと解される。
(2) 本件契約は、当初期間の定めのないものであったが、「六か月ごとに契約する特別職」との記載がある契約書に署名捺印することにより、期間の定めのある契約に変更する結果を招来したものであり、その他諸事情を総合考慮しても、本件更新拒絶が信義則に反し権利の濫用に当たるとは解せない。

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八州測量事件(S58.12.19東京高判)

【事案の概要】
(1) 入社後の賃金額が、求人票の基本給見込額を下回っていたとして、その差額の支払いを求めたもの。
(2) 裁判所は、求人は労働契約申込みの誘引であり、そのまま最終の契約条項になることを予定するものでないなどとして申立てを棄却した。
【判示の骨子】
(1) 求人票記載の金額はあくまで見込額であるなど、賃金額が求人票記載のとおり当然確定したと解することはできない。
(2) しかし、求人者は、みだりに求人票記載の見込額を著しく下回る額で賃金を確定すべきでないことは信義則上、明らかである。
(3) 求人票記載の見込額と入社時の確定額は、いわゆる石油ショックによる経済上の変動予測に基づく判断で決定されたものであり、判断の明白な誤りや誇大表示によるかけ引きを企図したなど社会的非難に値する事実はなく、見込額を下回ることは一応説明されているところであり、信義則に反するとは言えない。

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福祉事業団A苑事件(H29.03.30京都地判)

【事案の概要】
(1) 労働者Xは、ハローワークの求人票を見て、児童デイサービス等の業務を行うA苑に採用されたが、その求人票には、「期間の定めなし」、「定年なし」と記載されていた。ところが、その後、労働条件通知書には「契約期間を1年」、「定年を65歳」とされており、その労働者は、その労働条件通知書を見せられ署名押印を求められたが、既に前職を退職しており、これを拒否すると仕事がなくなり収入がたたれるとして、裏面に署名押印した。
(2) ところが、使用者は、その契約期間1年で期間が満了したとしてXを退職扱いしたので、Xが、従業員である地位の確認と退職後の賃金を求めて提訴した。
【判示の骨子】
(1) 求人票は、求人者が労働条件を明示した上で求職者の雇用契約締結の申込みを誘引するもので、求職者は、当然に求職票記載の労働条件が雇用契約の内容となることを前提に雇用契約の締結をするのであるから、求人票記載の労働条件は、当事者間においてこれと異なる別段の合意をするなどの特段の事情の無い限り、雇用契約の内容となると解するのが相当である。
(2) なお、労働条件通知書を示して説明し署名押印したことにつき、使用者が行った労働条件の変更の効力については、その変更についての同意の有無は、当該行為を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでだけでなく、当該変更により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者のへの情報提供又は説明の内容に照らして、当該行為が労働者の自由意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきものと解するのが相当である。
(3) 本件労働条件通知書に、Xが署名押印した行為は、その自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとは認められないから、それによる労働条件の変更についてのXの同意があったとは認めることはできない。
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