裁判例

5.賃金

5-4 「賞与不払い」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性

基本的な方向性

(1) 賞与の請求権は、使用者の決定や労使の合意・慣行等によって、具体的な算定基準や算定方法が定められ、支給すべき金額を定めることにより初めて発生します。
(2) 賞与の支給日または一定の基準日に在籍する者のみ賞与を支給するという取扱いは、有効であるとされています。

福岡雙葉学園事件 (H19.12.18最三小判)

【事案の概要】
(1) 学校法人Yは、人事院勧告に準拠して給与規程を改定し、11月の理事会で、教職員の月給額の引き下げを決定した上、12月期の期末勤勉手当の支給額について改定後の給与規程に基づいて算定した額からその年の4月分から11月分までの給与の減額分を控除するなどの調整をしてその支給額を定めた。
これに対し教職員Xらは、期末勤勉手当が一方的に減額され、一部しか支払われなかったとして、その残額の支給を求め提訴したもの。
(2) 福岡地裁は、11月の理事会による金額決定後は全額支払われており未払はないとして請求を棄却した。福岡高裁は、従前実績を下回る支給額が認められるためには個別の労働者側の同意又は特段の事情が必要として、福岡地裁判決を取り消し、Xらの請求を認容した。
これに対し最高裁は、原判決を破棄し、控訴を棄却し、地裁判決の結論を正当とした。

【判示の骨子】
(1) 期末勤勉手当の支給については、給与規程に「その都度理事会が定める金額を支給する。」との定めがあるにとどまり、具体的な支給額又はその算定方法の定めがないことから、前年度の支給実績を下回らない期末勤勉手当を支給する旨の労使慣行が存したなどの事情もうかがわれない本件においては、期末勤勉手当の請求権は、理事会が支給すべき金額を定めることにより初めて具体的権利として発生する。
(2) 本件期末勤勉手当の支給額については、5月理事会における議決で、算定基礎額及び乗率が一応決定されたものの、人事院勧告を受けて11月理事会で正式に決定する旨の留保が付されたことから、5月理事会において本件各期末勤勉手当の具体的な支給額までが決定されたものとはいえず、本件期末勤勉手当の請求権は、11月理事会の決定により初めて具体的権利として発生したものと解される。
(3) したがって、本件期末勤勉手当において本件調整をする旨の決定は、既に発生した具体的権利である期末勤勉手当の請求権を処分し又は変更するものであるとはいえず、この観点から効力を否定されることはない。

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大和銀行事件 (S57.10.07最一小判)

【事案の概要】
(1) Y銀行は、旧就業規則32条で「賞与は決算期毎の業績により各決算期につき1回支給する」と定め、慣行として支給日に在籍する者に対してのみ賞与を支給してきたが、労働組合からの申し入れを受け、昭和54年5月1日より就業規則32条を「賞与は決算期毎の業績により支給日に在籍している者に対し各決算期につき1回支給する」と改定し、同年4月下旬には従業員への周知徹底を図った。同年5月31日に退職し、支給日に在籍していなかったため賞与の支給を受けることができなかったXは、Y銀行に対して賞与の支払いを求めて提訴したもの。
(2) 大阪地裁、大阪高裁ともに、Yを退職した後のXの賞与については、支給日に在籍していなかったので、受給権を有しないとし、最高裁もこれを維持し、上告を棄却した。

【判示の骨子】
Y銀行においては、本件就業規則32条の改訂前から支給日に在籍している者に対してのみ決算期間を対象とする賞与が支給されるという慣行が存在し、就業規則32条の改訂は単にY銀行の労働組合の要請によって慣行を明文化したものであって、その内容においても合理性を有する。右事実関係のもとにおいては、Xは、Y銀行を退職した後を支給日とする賞与については受給権を有しない。

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